被害者 ページ19
一方その頃、吉本は吉本荒野の病室に来ていた。
昏睡状態の吉本荒野を見ながら、吉本荒野の母に向かって
話をする。
吉「沼田慎一の教育は修了しました。
彼がもう、吉本荒野になることは無いでしょう。」
母「息子を悪の代名詞のように言うのやめてください。」
その母の返答に対し、吉本は淡々と話を続ける。
吉「そうですね。彼だけが悪いわけじゃない。
あなたも同罪です。
8年前...彼が搬送された時のことを思い出しますよ。」
吉本は母の方を向いた。
吉「あなたは警察に犯人を捕まえるよう喚き散らしていたくせに、真相を知った途端今度はいじめの事実を隠蔽して欲しいと俺に泣きついた。」
母は食い気味に反論する
母「それの何がいけないんですか？どんな手を使ってでも自分の子どもを守るのが親の役目でしょう？」
吉「本当は自分を守るためだったんじゃないんですか？犯罪者の親だと周りから批難されたくなかったから隠したかったんじゃないんですか？
親なんて基本的に自分勝手な生き物です。
自分の理想を押し付けたり、思い通りにならないと見捨てたり、虐待で年間何人の子どもが亡くなっていると思いますか？一体年間で何人の子どもたちが親の犠牲になっていると思いますか？」
母「虐待って...。私は虐待なんかしていませんよ。」
吉「虐待はひとつのわかりやすい例えです。
虐待とは...子どもを直接的に傷つけることだけでは無い。いじめと同じです。」
そして吉本はもう一度吉本荒野の方を向き直って話を続ける。
吉「人間にはルーツがある。親から、そのまた親から受け継がれた教育によって今の自分がある。つまり...多くの怪物は突発的には生まれない。
吉本荒野というモンスターを作り出したのは...他ならぬあなたなんですよ。
あなたが息子さんをモンスターに、犯罪者に作りあげてしまったんです。」
吉「彼もまた...被害者なのかもしれません。」
そう言って吉本は病室を後にした。
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作者名：狂 | 作成日時：2020年9月13日 15時
