幻覚捜査

４　煙草 ページ4

パソコンの電源をつけ、左手の爪を噛みながら右手でマウスを操作する。パソコンの画面の中で白い矢印が上下に走る。

　ネット掲示板を開き、俺達の調べている事件について調べる。案外こういうところからも情報が入ったりするし、様々な意見を見ることで客観的に自分の意見を見つめなおすことができる。俺はかなりここを重宝している。

　一番上から一番下まで一言一句逃すことなく読み終えたが今回はあまり収穫はなかった。どれもすでに俺達のグループで出た話が多かった。

　深く溜息を吐いてパソコンを閉じる。新しい情報があるかと期待していた数分前の自分を殴ってやりたい。ネットの世界も甘くないな。

「駄目か？」
「あぁ、駄目だ」
　机を蹴って椅子を寄せてきて俺とパソコンの間に顔を突っ込んだロウーユ。
――その位置だととてつもなく邪魔なんだが。
「退いてくれ」
「あ、悪い」
　眉をひそめていうとロウーユは素直に頭をひっこめた。

　俺は明日も早くからパソコンを使うかもしれない、と思い掲示板を開いていたタブを削除してからパソコンをそのまま閉じた。

　今日の分の仕事を終えた俺は近くにあった灰皿を寄せ、ポケットに手を突っ込み、「KENT」と書かれた小さな箱とライターを取り出す。
　灰皿を左手、煙草とライターを右手に持ち、俺は部屋を出た。後ろから物音がする。ロウーユも煙草を吸いに行くのだろうか。

　ベランダの扉を開く。少し冷たい夜風が心地いい。

　柵に灰皿を置き、、煙草に火をつけた。
「お前ケントなんか吸ってんのかよ。オヤジみてえだな」
隣で俺の手の中の煙草を見つめながらからかうロウーユだが、その手にもいろいろと突っ込みどころのある煙草があった。

「お前こそパーラメント吸ってるのか。金を無駄遣いするなよ」
　街の明るすぎる光を見下ろしながら言う。隣で言い訳するロウーユの声も、考え事を始めてしまった俺の耳には途中から届かなくなった。

――被害者は今日までで十五人……偶然か、どこか共通点があるのか。共通点があるならばそれを早く見つけ、その共通点に当てはまるまだ生存している人間を保護しなければ……

　煙草の煙で肺を満たしながらそんなことを考える。この明るすぎる街で生きている人間に、いつ被害が及ぶか分からないと考えると無性に腹が立ってきた。

　吸っていた煙草を捨て、真新しい靴の裏でザリ……とつぶした。まだ少ししか吸っていないのに煙草を捨てた俺に驚いた様子のロウーユがどうしたのかと尋ねる。

５　怒号→←３　初恋2

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