暗闇の中で (ページ35)

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25話ページ35

自身の持ち場に向けて歩いていた在瑠は足を止め、フッと自嘲気味に笑った。

「…自分の伍は誰ひとり死なないでくれと願うのに、私は、彼らには死ねと言うんだな。」

在瑠の目線の先には、秦軍の兵士が隊列を組み闘志を燃やしている様子があった。何も感じないわけじゃない。でも、これが最善だと思った。誰も死なせたくない、被害を最小にしたい、と思うのに、誰かが死ぬことを前提に策を立てた。我ながら、矛盾していると思う。

きっと、私が一番臆病なんだ。彼らはもう覚悟できてる。戦う覚悟、死ぬ覚悟、失う覚悟…

「大丈夫、私はできる。」

そう呟いて、快晴の空の下自分の持ち場に向けて走った
。チクチクと痛む胸には気づかないふりをして。

ところで軍に近づくにつれて、私はふと新しい課題に気付いてしまった。
隊列が完全に済んだ軍、軍の先頭に立つ録嗚未。

「終わった、完全に遅刻だ。」

そうだ、こっそり行こう。気づかれなければいいんだ。それに気配を消すのは私の得意分野だ。よし、まずは…どうしよう。見たところ隠れられそうなところも無ければ、影になりそうなところもない。だが、録嗚未に見つかるのは面倒だ。なんせ、声がでかい。うるさい。長い。想像するだけで頭が痛くなってきた。仕方ない、隠れずに静かに行こう。

そう考えて、私はゆっくりと足音を立てずに歩き始めた。よし、もう少しで人の影に隠れられる。ここまでくれば…

「おい！そこのお前、どこでサボってやがった！」

ビクッと体がこわばる。こんなにも背筋を伸ばして綺麗に立ったのは初めてだ。恐る恐る声が聞こえてきた方に首を向けると、そこには案の定鬼の形相の録嗚未がいた。

「…あははは～、なにか御用ですか…」

「遅刻とは何たることだ！ここは戦場だぞ！その気の緩みが命取りになると心得ろ！」

ここまで怒鳴られたのは初めてかもしれない。録嗚未の言葉一つ一つから怒気を感じる。

「さっさと、持ち場につけ！」

「ハッ」

私は拱手して、ササッと自分の班のもとへ戻った。

班に戻ると皆が大丈夫か、と声をかけてくれた。録嗚未とは比べ物にならないくらい良い人たちだ。まぁ、今回に関しては私が悪いんだけれども…

「さて、今日もまた始まるぞ。お前ら死ぬなよ。」

楚顕が真っ直ぐと前を見ながら私達に告げる。私達はその声に元気良く返事する。

こうして、二日目の戦場は幕を開けた。