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0時。バイトの上がりの時間になっても、電車は復旧しない。
最寄駅は路線が一つしかなくて、ホールには帰宅できないことを悟った人々が残っていた。
制服から私服に着替えたAが、俺の手を引いてホールへと連行する。
sg「ちょ、何のつもりだよ」
『そこ、座って』
指差されたのは、グランドピアノ。ジャズ歌手などを呼んでたまに公演が行われるステージにある。
『帰れなくて憂鬱になってるお客様のために、一曲弾いて頂戴』
sg「何を?」
『即興でも何でもいいよ。耳障りじゃない、ダウンテンポの曲。スロー・ジャズな感じで』
ドラムの前に座ったA、間髪入れずにハイハットを叩く。
――
即興が一曲終わって、Aのハイハットに促されるままテンポを上げて次の曲に移ろうとすると、ピアノから音が鳴らない。
何度鍵を叩いても、鳴らない。
もどかしさのあまりに強く指を叩きつけても、音が鳴らない。しまいには鍵盤が岩のように重く、びくともしなくなる。
目を開けると、自分の部屋のソファーの上。
……ああ、夢か。
重い体をしばらく起こす気にもなれず、天井を向いたまま呆然とする。
イヤホンからは、あの夜Aと一緒に演奏した即興が流れていた。
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作者名:m0668476373 | 作成日時:2020年9月22日 22時