憑神様 (ページ10)

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Aside

「部屋は、見なくてもいいか。昨日、見に来たもんね。でも、一応もっかい見とこう。」

案内するよ。と立ち上がったツキガミさんの後を追って、私も立ち上がる。昨日も見せてもらったけどね、と心の中で付け足して、嬉しそうに前を歩く、彼の背中を目で追った。

「ここが、洗面所で、こっちがバスルームね。このスイッチで、明かりがつくから。ここの電気はこっちのスイッチ。そっちは、お手洗いね。」

スイッチにはわかりやすく、場所まで書いてある。これはありがたい。スイッチって、慣れるまで戸惑うものだからね。いろんなスイッチ押して、笑われることも無さそうだ。

「こっちが、寝室。」

開けたドアの向こうには、ベッドと収納が見える。まあまあの広さの中に、大きなベットが。一人で使うなんて何だか勿体ない。

「これだけ広ければ、君の部屋にもなるんじゃない？机とか置いてさ。」

A「あの、あなたはどこまで寝るんですか。」

「俺はね、別に寝なくてもいいんだよね。人間じゃないからね。なんかあったら、リビングのソファーで寝れるから大丈夫。」

彼の人間じゃないからの言葉が、頭の中をぐるぐるとひとりでに歩き出す。あまりにも、中身も容姿も変わらなくて本当は人間じゃないのかなと、思っていた。人間じゃないってのは、言葉のアヤみたいな。

「どうしたの？何かあった？」

立ち止まった私に気がついて、彼が振り向く。

A「本当に、人間じゃないんですか。」

確かめておかないとだと思った。言葉が本当か。

「どっちか、手を出して。」

いきなりそう言うもんだから、おずおずと利き手を差し出した。握手のように、彼の手が伸びてくる。私の手と重なると、彼の手の感触はなかった。

「触れないんだ。人間にだけ。」

彼は、少し悲しそうにそういった。暫く空中に浮いていた私の手は、力を無くしてストンと体の横に降りてきた。

ならばどうして、私は彼が見えるのだろう。