憑神様 (ページ2)

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目の前で俯き動かない私を見て、ただ事ではないようだと悟ったのか、男性はそっと席を立って、お茶とお菓子をくれた。

｢あ、すみません。ありがとうございます。｣

｢一番、家賃がお安いのはここかね。｣

男性が持ってきたチラシに目を向ける。

｢築年数は立っているけど、中はリフォーム済みだからね。あと、家電家具が付いてるよ。駅からも近いし、周りに大きなスーパーがあるから買い物には、困らないよ。｣

｢それで、この値段。｣

赤と黒の２色で刷られた、チラシの中で一際目立つように囲まれた家賃を目に焼き付ける。

まあ、正直値段なんてどうでもいいのだが、目線だけでも一応やっておく。

「あの。」

やっぱり硬い私の声が、落ちる。喉がきゅっと閉まって出しづらい。

「はい？」

「海は…。その家から海は見えますか。」

予想外の質問に、男性の目が少しだけ大きく開かれる。すぐに戻ると、男性は

「この家は、海から一番近い道路の向かいの少し高台にあるんだ。だから、どの部屋からも綺麗に見えるよ。」

と、答えた。

海が見えること。

それが条件。

築年数が経ってようとも、家賃が高くとも、立地が悪くても関係ない。

海さえ見えればいい。

「あなたは、幽霊とか大丈夫？」

少し聞きにくそうに、まゆを下げた男性がそう聞いた。

「え？」

「この物件、」

とんとんと、指先でさっきのチラシを叩く。

「出るらしいんだ。いわく付きってこと。」

「気にしません。」

どうせこれからの時間は、死ぬまでの時間潰しみたいなもんなんだから。