ふたり (ページ31)

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31. (side Hokuto) ページ31

「A、あのさ」

「…………へ？」

「いや、昨日、」

「待って待って！北斗くんに名前呼ばれるの初めてかも！」

「え？さすがに初めてではないと思うけど」

「絶対初めて！だっていつも〝ねぇ〟とか〝樹の妹〟とか〝あなた〟とかそんなカンジだもん」

「まぁまぁそうね」

「名前知らないのかと思ってた」

「…知ってるに決まってんだろ」

でも思いの外妹が名前を呼ばれた事に反応して。

「えっと、じゃあこれからも名前が良いな」

なんて言われてしまった。

その可愛らしいお願いを断る理由なんかあるはずもなく。

「…わかった」

頷く俺に樹の妹、もといAが嬉しそうに笑みをこぼした。

あ、可愛い。

…て、違うだろ。

その笑顔に胸がトクトクと脈を打つのを僅かに感じながらも、本来の目的を果たそうと再び口を開く。

「…で、話を戻すけど「うわ！マジでバーベキューの準備バッチリじゃん！！」…うるせぇな」

そんな俺の声を呆気なく遮った、慎太郎のバカでかい声。

それを聞いたAが更に笑みを深めた。

〝北斗くんも早く〟と急かされれば、もう謝れるような雰囲気じゃなくなってしまって。

促されるまま部屋に上がる。

脱いだばかりの靴を手に後を付いて行くと、そこは京本の言う通りかなり広々していたリビングで。

開けっ放しになっていた大きな掃き出し窓から、ちょうど高地が外に出る所だった。

「大我、マジで手伝ったんだ」

「そーだよ。やる時はやる男だからね」

多分その向こうにいる京本の声も聞こえてくる。

「Aちゃん冷蔵庫にこれ入るかな？」

「あ、さくらちゃんはケーキだっけ？」

「うん。作ってきた」

「……え。作ってきたの？買ってきたじゃなくて？」

「お菓子作りが趣味で。だからケーキ立候補したの。味は保証できないけど」

「えー！！凄い！！ありがとう！！」

「絶対美味しいよ！楽しみだぁ！ありがとー！」

戻ってきたAにケーキを渡しながら、女の子たちが盛り上がっているのを横目に、俺も高地の後に続く。

充分な広さの庭は、慎太郎の言う通りすっかり準備が整っていて。

アウトドア用の椅子に寛ぐ京本と樹がいた。