ふたり (ページ20)

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20.(side Hokuto) ページ20

樹に妹がいるのは知っていた。

時々話には上がっていたし、何よりいつも遅刻ギリギリでダルそうに歩く樹を一生懸命に引っ張って登校する姿は何度も目にしていた。

校則の緩い学校でピンク髪の兄とは反対に、なびく黒いストレートの髪の毛が遠目からも綺麗で印象的だった。

余談だけど、この陽キャ集団の髪色は金だったりメッシュだったり。

さすがに自由過ぎて村上先生に注意を受けているけど、〝聞く耳を持つ〟なんて言葉はコイツらの辞書には多分ない。

まぁそんな話はさておき、とにかく俺は、そんな彼女がどんな子なのか密かに気になっていた。

どうやら話を聞く限り、2人は絵に描いたようなブラコンシスコン兄妹らしく、新入りの俺は紹介される事もないままだったけど。

先日のペナルティの一件で俺もようやく彼女と話す機会を得た。

ちょっと失敗したような気もするけど、樹とは違って人付き合いは得意じゃないとかで、随分控えめで。

遠慮がちに笑った顔は素直に可愛いと思った。

「おいジェシー。うるせぇんだよ。Aが驚いてんだろ？」

「お兄ちゃんごめんねぇ」

「気持ち悪ぃな。来んなよマジで」

「あ、卵焼き美味そー！樹ちょーだい？」

「ばっ、慎太郎止めろって！Aの卵焼きママ直伝で美味いから残してんだって！」

「食に興味ない樹くんもAの手作り弁当には必死過ぎて笑える！」

楽しそうにみんなのやり取りに加わったのは、樹の妹の友達。

陽奈、というらしい。

彼女と俺はほとんど口を聞かないけど、俺が樹の妹と接点を持ったおかげか、昼はこのメンバーでいる事が多くなった。

ちなみに妹の手作り弁当は、朝起きない樹を釣るための嘘から始まったらしい。

〝Aが嘘ついた〟

〝詐欺だ〟

〝嘘つきは不良の始まりだ〟

〝Aが不良になっちゃった、どうしようこーち！〟

〝もう本当に作ってくれるまで学校来ない！〟

などと散々妹に文句を言う姿はとても兄には見えなかったけど。

みんなは慣れっこのようでその様子を大爆笑しながら眺めていた。

結局次の母親の夜勤の日に弁当を作ると約束を取り付けた事で、樹は落ち着いた。それまではとにかくうるさかった。

「でも確かにAの卵焼きは美味しいんだよねぇ」

陽奈ちゃんが妹の方の弁当から勝手に卵焼きを摘み上げた。