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少し困ったように眉毛を下げて、田中くんが私を見下ろした。
「正直俺の知らないとこで勝手にきょもと仲良くなって勝手に髪の毛触らせて、大我くんてなんだよって思ってた」
そしてものすごく反応に困るような事を口にした。
だってそれじゃあまるで、田中くんがヤキモチでも妬いているように聞こえる。
……いやいや。何考えてんだ、私。
ないない。あり得ない。
浮かんでしまった勘違いも甚だしい考えを追い出したくて、目を閉じて小さく首を振っていると。
「A、」
唐突に田中くんが私の名前を呼ぶ。
驚いて再び見上げれば、何か思い付いたみたいな悪い顔で微笑んでいた。
さっきの困った顔はもう何処にもない。
身の危険を感じて思わず後ずさるけど、すかさず田中くんの手が私の腕を掴んだ。
「へ？！え、ちょっ、えぇ？！」
「俺の事も樹って呼んでよ」
「む、む、むり、無理だと思う！」
「なんで？簡単じゃん。樹だよ、樹。ほら言ってみ？」
掴んだ腕を引かれて、更に距離が詰まった。
田中くんの顔が目の前。
これはもう言うまで離してくれない気がして、徐に口を開く。
「…じゅ、じゅり」
なんとか音になった私の声に、ニヤニヤと田中くんの口元が緩む。
「良く出来ました」
「ならも、良い？手、離して、欲しい」
「まだダメ。だってきょもに聞いたんでしょ？俺の誕生日」
「き、聞いたけど。あの、近い、から」
「だな。わざとに決まってんだろ」
「〜〜っ、」
「なぁ、誕生日プレゼントくれる？」
「も、もちろん。あげれるものなら、なんでもあげるから！」
「なんでも？」
「なんでも！」
「言ったな？」
「うん、言った！だから、は、は、離れて！」
私の切実なお願いは届かず、変わらずニヤニヤした顔が更に近付いてくる。
耳に寄せられた唇。
「じゃあ誕生日プレゼントはAが欲しいなぁ」
「！！！」
もうとっくに限界を迎えていた私の脳みそは、その言葉と共に呆気なくショートした。
「期待してんね」
とそのまま耳元で響くリップ音と柔らかな感触。
「〜〜ッ！？！？」
満足そうにゆっくりと離れた田中くんがようやく私の腕を解放してくれたけど。
私はしばらく身動きが取れずに、ただその満足そうな顔を見上げていた。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
