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「…いやなんで松村さんがヘコんでんの？」
「…ちょっと自己嫌悪中」
「なんでだよ」
「いろいろ」
「もしかしてきょもに悪いとか思ってる？」
「それもあるけど」
田中くんがメニューから視線を私に戻して、再び溜息を吐き出した。
それを見てますます自己嫌悪。
「最初に言ったよな？ちゃんと可愛いよ？たとえきょもの提案でも俺の為に可愛くして来てくれたのも凄ぇ嬉しい。だから自己嫌悪とかしなくて良いから」
「…でも機嫌悪い」
「悪くねーよ」
「…絶対悪い」
「しつけぇ」
眉間にガッツリ皺を寄せて、聞いた事ない低い声で言われても説得力なんてないけど。
ピシャリと言われてしまえばもうそれ以上何も言えなくなる。
「…悪い。言い方キツかった」
思わず目を伏せた私に、さっきとは違う田中くんの申し訳なさそうな声が耳に届いた。
「なんつーか俺の問題。気にしないで。マジで機嫌悪いわけじゃねーから」
"ほら腹減ったしなんか食お？ビールで良い？"と広げられたメニューをずいっと私の方へ近付けた。
言葉通り、それからはいつもの田中くんだった。
いつものように楽しく話してあっという間に時間が過ぎていく。
"今日は真っ直ぐ帰ろうなー？"なんて前回潰れてしまった事を揶揄われながら、2人並ぶ帰り道。
ちなみにお会計は私がうるさいからと割り勘にしてくれた。
「あのさぁ、さっきのさぁ」
「ん？さっきの？」
「きょもに髪セットしてもらってさ」
「あー、うん」
先程ほとんど強制的に話を終わらせたのは田中くんなのに、なんだろうとその顔を見上げると、田中くんがふと足を止めた。
マンションはもう目の前だ。
「メイクもきょもにやってもらったの？」
「それは綺麗なお姉さん」
魔法みたいな言葉は私にしか効果がなかったけど。
それでも別人みたいに変身出来たし充分だ。
「あー、中野さんかな…」
田中くんは独り言のように呟いた。
「もしそうなら、ラッキーだな。結構人気で雑誌の撮影とかにもよく行ってる人だから」
「え？！そんな人にメイクしてもらったの？」
「うん。だからいつもと雰囲気違うけどちゃんと似合ってんだと思う。マジで可愛い」
「…嘘つき。さっき凄い不機嫌だったくせに」
「だから違ぇんだって。てかさっきも可愛いって言ったじゃん」
「怖いくらい眉間に皺寄ってたもん」
「…ごめんて。でも確かにあんまり気分は良くなかった」
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
