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"はーい、時間ないから始めるねー"とマイペースな京本さんによって、少しずつ鏡の中の私が変身していく。
「ちょっとメイクも直させて」
しまいにはスタッフの綺麗なお姉さんを呼んでメイクまで綺麗にしてくれて。
「田中くんとデートなんだって？」
「デートじゃないんですけど…」
「あらら。真っ赤になっちゃって。ほぉんと予想外のタイプ」
揶揄っているのか楽しそうに笑うお姉さんが、"仕上げ"とグロスを唇に乗っけてくれた。
「もっと自信持って。大丈夫、本当に可愛い」
まるで魔法でもかけてくれているような優しい言葉と綺麗なお姉さんの笑顔にキュンとして、思わず見惚れていると。
「Aちゃんて女の人にも固まっちゃうんだ」
その様子を見ていた京本さんが喉を鳴らした。
「じゃあ頼むね」
そのまま案内されて、お会計…と思ったら、京本さんが店の入り口で私を見送るように手を振っている。
「いやあの、お会計は？」
「俺から樹へのプレゼントなんだから、いらないけど」
「そういうわけにはいかないんだけど」
…なんだろう。
この人たちはお金を貰うのが罪かなんかだとでも思ってるんだろうか。
確かに今回は私が希望したわけではないにしろ、別人のようにしてもらったのに無銭なわけにいかない。
「でもそれじゃあプレゼントじゃなくなっちゃうからなぁ」
それでも全く受け取る様子のなさそうな京本さんにのらりくらりと交わされて。
そのうち思い付いたと言わんばかりの顔をする。
「あ、ならそろそろ京本さんは止めない？」
「そろそろって言う程会ってないし」
「じゃあこのままお帰りください」
「お金を払わせてください」
「ふはっ、案外頑固だね。マジで今回は諦めて。貰う気ないから」
「京本さんも案外頑固なんだね」
「大我ね」
「京本くん」
「大我くん」
「…面倒くさっ！もー、わかったよ。大我くんね」
私がそう呼ぶと、大我くんが満足そうにふわりと微笑んだ。
何回見ても綺麗な顔だけど、田中くんと違ってもう慣れた。
"またねー"と手を振る大我くんに手を振り返してお店を後にする。
いつの間にか梅雨入りを果たした空は雲に覆われているものの、まだまだ明るい。
それでも確認した腕時計がそろそろ約束の時間に迫っている事を知らせていて、少しだけ小走りで駅に向かった。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
