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「…松村さん、寝ちゃった？」
しばらくすると聞こえてきた田中くんの声。
「……んぅ？まだ…おきてる」
「眠そ〜かぁいい〜」
今はそのニヤニヤ声に反応するのも億劫なくらい瞼が重い。
「朝さ、何時に起きれば間に合う？俺、起きれる自信ねぇから、起こしてくんね？」
「…ん、だいじょーぶ、だよ」
「…何が？」
「おきて、ひとりで、かえる」
「無理。すげぇ機嫌悪いかもだけど、ちゃんと起こして」
「……あい」
"すげぇ機嫌の悪い"田中くんを起こすのは随分骨が折れそうだと、ほとんど働いていない頭で考えて。
遠くに"おやすみ"と田中くんの優しい声を聞きながら、私は意識を手放した。
カーテンの隙間から差し込む光に飛び起きた。
ヤバい、今何時だろう。
部屋中見渡して時計を探すけど見当たらなくて。
慌ててベッドから出てバッグからスマホを取り出した。
……5時。
表示されている時刻を見てホッと息をつく。
安心したら急にまた気持ち悪くなって来たけど、仕事だし帰らなくちゃ。
チラリと視線を落とせば、私がバタバタしたせいか眉間に皺を寄せる田中くん。
どうしよう。起こす勇気がない。
…ないけど、起こさなかったらそれはそれでうるさそうだ。
仕方なく隣にしゃがみ込む。
「…田中くん」
「……」
「田中くん、起きれる？」
「……あ゛？」
「……ひぃぃ、ごめんなさいぃ」
ますます眉間に深い皺が刻まれる。
恐ろしくて起こすのは無理だと判断した私はそーっと立ち上がる。
逃げるように忍足で離れようとすれば、手首を掴まれた。
「ぎゃっ！！」
「…どっから声出してんだよ」
振り返ればあちこちに寝癖のついた頭をボリボリ掻きながら、半分しか開いていない目で私を見上げる田中くんがいた。
「…諦めんな」
「あまりにも恐ろしくて」
「失礼過ぎんだろ」
それでも少しだけ頬を緩めて"ちょっとだけ待って"と田中くんは座ったまま重そうな瞼をパチパチさせて。
5分ほどそうした後。
「…送る」
となんとか立ち上がった。
外に出れば、太陽が顔を出していてもうすっかり明るい。
眠そうな目を擦りながら、スウェット姿でペタペタサンダルを鳴らして歩く田中くんの姿は、爽やかな早朝には似付かわしくないような。
徹夜明けタバコ切らして仕方なくコンビニに向かってると言ってたらしっくりくるような。
とにかくダルそうに歩く姿はどちらにしても笑える。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
