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よろしくない。
この甘い香りも、田中くんの言葉も非常によろしくない。
それでも律儀に毎日ヘアオイルを塗るのは、これだけでお手入れと言って良いかはわからないけど一応約束したからだし、それなりに効果も感じてるからで。
せっかく田中くんがくれたから無駄には出来ないと思ってるだけだ。
今日もお風呂上がり、部屋の真ん中に敷かれたラグの上。
丁寧にオイルを塗り込めば、鼻を掠める甘い香り。
"俺好みの匂い"が言葉通り私の頭の中を田中くんでいっぱいにする。
「…ねぇお嬢さん」
ドライヤーをかけ終わると、しっとりした毛先を急に弄られて驚いた。
頭の中を占領していた田中くんのおかげですっかり抜け落ちていたけど、ほっくんが来てたんだった。
振り返れば真後ろにいるほっくんにますます驚いた。
左手で膝を抱えて三角座りして。
じとっとした視線をこちらに向けながらも、相変わらず人の髪の毛でクルクルと遊んでいる。
「こないだ来てから1ヶ月も経ってないけど、どういう心境の変化なわけ？急に髪なんか染めてさぁ。風呂上がりにそんな甘い匂いまでさせちゃってほっくん心配よ？」
「1ヶ月も開けずに妹の部屋に来てほっくんとか自分で言っちゃうお兄ちゃんの方が私は心配だよ」
「何？いじめられてんの？見た目少し派手にして威嚇する作戦？」
「あ、無視された」
「それとも遅い反抗期？お兄ちゃんなんかした？」
今日のほっくんは少しご機嫌が悪いようだ。
どっちも不正解だとわかっていて質問してくるあたり、若干面倒だとも思う。
間違っても田中くんにやってもらったなんて言えない。
もっと面倒臭くなるのは目に見えてる。
「…山田さんに一緒に美容室行こうって誘われただけだよ？」
「それは髪染めた理由にはならないじゃない？」
「山田さんが勝手にカラーの予約してて…」
「そんなのいくらでも断れるでしょうが」
「…もー！！うるさいな！大人なんだから別に髪の毛くらい染めても良いでしょ！そうやって詰めてくるとこ嫌い！」
「…嫌いはやめれる？」
いい加減うんざりした私に、ほっくんがようやく髪を弄る手を止めた。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
