25.(side Taiga) ページ26
樹から彼女の話を始めて聞いたのは、まだ学生だった頃。
凄いカッコ良くて凄い優しくて、おまけに盛り上げ上手。
だから樹は出会った頃からいつも輪の中心にいた。
とにかく男女共にモテたし、1年にして学校牛耳ってんじゃないの？ってくらいの人気ぶりだった。
もちろん女の子に困った事なんてない。
4時間もあれば落とせると豪語してるのを聞いた事もある。
そんな樹が高校時代唯一落とせなかったのが彼女らしい。
"別に好きとかじゃなかったんだけどさ"なんて言いながらも、話をする樹の顔はまるで初恋でも思い出しているような顔だった。
手の届かなかった思い出の女の子なんて、それだけでもう"特別"になっちゃうじゃん？
だから"松村さん"は樹の中でそういう存在なんだろうな、と俺はずっと勝手にそう思ってた。
そんなわけで彼女の自己紹介を聞いた時はマジで驚いた。
樹がいつもより嬉しそうなのも気付いてた。
飲みに行った先で、つい樹と彼女を揶揄っちゃって、次の日仕事で会った樹に文句言われたけど。
そんなの全く俺の耳には届かないし、なんだかとんでもなく楽しそうな予感がした。
「…春だねぇ」
「え？もう5月だよ。春っていうか初夏。今日真夏日だったの知らない？」
「ずっと店の中にいたからかな」
「私もずっと営業所の中にいましたけどね」
わざとらしく笑うのはAちゃんの会社の先輩。山田さん。
彼女は案外勘が良いらしい。
隣で樹にカットされてる…鏡越しに一生懸命に樹を目で追う顔が可愛らしい、そんなAちゃんの姿をチラリと見て。
"まぁでも春だねぇ"なんて笑う山田さんの顔が結構俺のタイプなのはここだけの秘密。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
