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……しまった。余計な事を口走った。
運ばれて来たアイスカフェオレにガムシロを注いで、ストローを回してカランカランと音を立てて。
相変わらずニヤニヤしたまま、山田さんが新しいオモチャでも見つけたような視線を私に向ける。
確かに田中くんといるとドキドキしちゃうけど。
あの顔見たらきっとみんなそうなると思う。
「ちなみに私は田中くんで心臓が持たないほどドキドキする事はないからね？」
「え、」
「ちょっとは良いって思ってるって事だよ。自覚しなさい」
さも楽しそうに笑う山田さんが、ストローに口を付けた。
私もそれに倣ってアイスカフェオレを口にする。
……苦。
山田さんが変な事言うからガムシロ入れ忘れた。
「松村ちゃん動揺し過ぎ。本当可愛いねぇ」
今日の山田さんはちょっと意地悪だと思う。
だけど、もし山田さんの言う通りなら私はとんだ勘違いヤローだ。
昔も今も変わらずカッコ良くてキラキラ眩しい笑顔で。
華やかな場所で働いていて、あんな綺麗なお姉さんも笑顔に出来ちゃうし、私の事も別人にしてくれるし。
仕事にも一生懸命で。
田中くんは今もきっと住む世界の違う人。
でも、そう思ったら何故か胸がチクリと痛むんだ。
それから程なくして田中くんと京本さんがやって来て。
今日もしっかりマンションまで送り届けてくれた田中くん。
終始ご機嫌でいちいち"可愛い"と言うから、最後には聞き流すという至ってシンプルな技を習得したんだけど。
「あ、松村さん」
「…え？」
「はい、これ」
「何？これ」
別れ際に呼び止められて、手渡された小さな袋。
「さっきも使ったんだけど、オススメのヘアオイル。めちゃめちゃ俺好みの匂いすんの」
「…えっと、なんで？」
「約束じゃん？ちゃんと手入れしてね」
「…お金、」
「いらねーから」
「…困るよ」
「じゃあ困っといて。んで、とりあえず受け取って。そんでもっと俺の事いっぱい考えてくれればそれでいーから」
なんて。
ニヤリと片眉を上げて、特大の爆弾を落とされて。
私は結局、呆気なくドキドキし始める鼓動を感じながら、その顔を見上げる事しか出来なかった。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
