3. ページ3
昔から人見知り拗らせてて、人付き合いは得意じゃない。
だから学生時代、私は教室の隅で1人本を広げるそんな子だった。
全く友達がいないわけじゃなかったし、それで特に困ったこともなかったけど。
あれは確か高3の頃──。
進路についての個人面談があって、運悪くあてがわれたのはその日の面談の1番最後。
時間まで本でも読もうと、カバンから大好きな小説を取り出した。
小説はいろんな世界に連れて行ってくれるから好きだけど、正直勉強は得意じゃない。
大学だってお兄ちゃんが行っとけって言うからそうしようと思ってるだけで、特にやりたい事もない。
だからそれなりの勉強で入れれば充分。
なんの取り柄もない。夢もない。
あーぁ、面談面倒だなぁ…。
ぼんやりとそんな事を考えながら、ページを進めていくうちに私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
──松村さん。
微かに私を呼ぶ声に、うっすら目を開けると飛び込んで来たのは私の前に面談を終えた田中くんだった。
机に突っ伏して眠っていた私の向かいに屈んで、同じように顔を乗せて私を呼ぶ田中くん。
その距離があまりにも近くて、ビックリし過ぎて息が止まった。
多分5センチくらい目玉が飛び出したと思う。
「ふはっ、驚き過ぎじゃね？」
目の前から動かないまま、田中くんはその綺麗な顔をくしゃりと崩して笑った。
どきん、と心臓が大きく音を立てる。
さすがキラキラ一軍男子。
間近で見る田中くんの笑った顔は、心臓にあまり良くない。
「松村さんも居眠りとかすんのな」
「…そりゃするよ」
「いつもしゃんとしてるイメージ。なんか良いモン見ちゃった」
「…どうか忘れてください」
「なんで？可愛かったよ？」
それでなくても心臓がうるさいのに、きっと田中くんにとっては言い慣れた言葉で、何気なく言ったんだろうけど。
それは私を更に動揺させた。
顔が熱い。
思わず目を逸らした。
距離が近いままだから、田中くんにバレたりしてないだろうか。
てかなんでこの状態のまま話してるんだろう。
「もしかして照れてる？」
私の心配を他所に簡単に図星を突かれて、ますます顔が熱くなる。
「……田中くんにそんな顔でそんな事言われたら照れるに決まってるよ」
「ふはっ！素直！松村さんて可愛いとこあんのな」
笑顔の田中くんに、私の心臓は呆気なく限界を迎えて。
裏返して置いてあった小説の背表紙を見つめて、ただただ俯く事しか出来なかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1056人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
