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「ねー、まだ拗ねてんの？」
「…拗ねてない」
「なら良いっつってんだから、女の子はご馳走様ってニコニコしとけば良いの」
「…田中くんの知ってるようなニコニコ出来る女の子じゃなくてすみませんね」
「そういう意味じゃねーよ」
実は、帰り際、気付いた時にはもうすでに田中くんが会計を済ませていた。
前回もご馳走になったし、払うと言っても聞いてくれないし、強引に押し付けてしまおうとお財布を取り出したら田中くんの眉間に一瞬で皺が寄って、ちょっと怖くてすぐ引っ込めた。
別に拗ねてるわけじゃなく、納得してないだけだ。
「…じゃあ、間取って今度は松村さんが奢ってくんない？」
「…今度、」
「そう、今度。次は松村さんのお勧めの店で」
「…私あんまり外食しないけど」
「あ、自炊派？じゃあ手料理でも良いよ？」
「それは無理」
「そこは即答すんだ」
次…もあるのか、と少し驚く。
数年ぶりの再会。住む世界が違う私とご飯を食べて田中くんは楽しいのか不思議で仕方ないけど。
次があるのは、決して嫌じゃない自分にも少し驚いてる。
「たまに行くとこ…で良かったら」
「じゃあ予定確認してまた連絡するわ。返事、「します」ふはっ、よろしく」
田中くんが小さく笑って、"はい。じゃあ機嫌直して帰るぞー"と歩き出した。
だから別に機嫌が悪いわけじゃないんだけどな。
そんな事を思いながらどんどんと先を行ってしまう田中くんに駆け寄った。
その後はこの間みたいに"大丈夫"という私の意見はあっさり却下され、しっかりマンションまで送り届けてくれた田中くん。
この間とは違って、私が中に入る所まで見届けてくれたから。
部屋に戻って、せめて小さな背中だけでも見送ろうとベランダに出てみれば、何故かまだエントランスの前でマンションを見上げる田中くんがいて。
私に気付いたその顔が、漏れる光に照らされてくしゃりと崩れた。
……そんなのズルいよ田中くん。
その笑顔に簡単にドキンと胸が音を立てる。
トクトクと早足になる鼓動を感じながらなんとか振った手の向こうで、相変わらず田中くんが微笑んでいる。
ほんの数秒、視線が混じり合って。
田中くんが右手を上げてくるりと踵を返した。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
