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お母さんはいつも忙しそうに働いていたし、祖父母は遠方だったし。
小さい頃からほっくんほっくんと後を付いて回っていた私は、2つしか違わないお兄ちゃんからますます離れられなくなった。
だから私の中でお兄ちゃんは、お兄ちゃん以上の存在だったりする。
なんだかんだ言ってはみても、お兄ちゃんの過保護は案外嫌じゃないのだ。
「それで？あの男誰なの？」
チラリと横目で私を見下ろすお兄ちゃんが眉を顰めた。
「高校の同級生。異業種交流会で偶然会って」
「ふーん？高校の同級生に仲良いヤツいたなんて聞いた事ないけど？」
「多少はいたよ。田中くんとはまぁ、良いとは言えなかったけど」
「…田中くん、」
「そう、田中くん。住む世界が違う人」
でも。
笑顔の可愛い人。
「何してるヤツ？」
「美容師さんだって」
「なんか軽そうだったじゃない？大丈夫なの？」
「あのね？遅いからって送ってくれただけ。それにそんなに心配しなくても私もう大人だからね？」
お店に誘ってくれたのだって、美味しいご飯屋さんに誘ってくれたのだって、社交辞令だ。
それくらい弁えてる。
「俺にとってはいつまでも可愛い妹なのよ。Aの事安心して任せられるヤツが現れるまでは心配させてよ」
お兄ちゃんの目が少し寂しそうになって、大きな手が私の頭を撫でた。
そうは言っても私ももう社会人だし、私の事なんて構わなくて良いから、お兄ちゃんこそ早く幸せになって欲しいんだけどな。
「それでなくてもあなた男見る目ないんだから」
「…そうかな？」
「こないだは浮気されたんだっけ？その前は確か…あぁ、デート代全部A持ちだったね」
「…いちいち言わないでよ。わかってるもん」
「早く安心させてください」
「…お風呂入ってくる」
「はいはい。いってらっしゃい」
「…ほっくんは？」
「誰かさん待ってる間に入らせてもらったからごゆっくり」
お兄ちゃんが小さく笑いながら、再びどんよりした夜空を見上げた。
私も釣られるように空を眺める。
ふと浮かんだ田中くんの笑顔は、この空とはまるで正反対だ。
明るくて、可愛くて。周りを華やかにしてくれる。
やっぱり住む世界の違う人。
今まで会う事なんてなかったんだから、これからも会う事はないだろうけど。
でももし会えたら声くらい掛けても良いのかな、とふと思った。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
