「彼には音がない。（渡辺翔太）」

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『ごめんね、呼び出して。なんか用事とかなかった？』




『ううん、全然大丈夫だよ』




『よかった、入って？』




『お邪魔します』




お兄ちゃんの家に着いて、リビングにあるソファに座る。




『……で、なんかあった？』




『……まあ、ちょっと？』




そう言って笑うお兄ちゃん。……え、なに？




『俺さ、結婚することになった』




へーー。




……………。




「……え！？！？！？」




『なに？(笑)』




『なに？じゃないよ！結婚！？そもそも彼女いたの！？！？』




『うん、高校生のときから付き合ってる』




『なんで今まで言ってくれなかったの！？』




『恥ずかしいじゃん』




『なにそれ！……お父さんとかには言ったの？』




『言ってないよ。彼女いることも知らない。Aに1番最初に言いたいなって思って』




聞くと、その人はろう学校の頃の同級生で、お兄ちゃんと同じ、生まれつき耳が聞こえないらしい。




お兄ちゃんと同じタイミングで上京してきて、同じ職場で働いてるんだって。




『来週末、お互いの親に挨拶しに行くよ。Aもついてくる？』




『なんでよ(笑)2人で行ってきて』




『うん、分かった(笑)』




『お兄ちゃん、幸せになってね』




『うん、ありがとう。Aも、いい人探しなよ。誰だっけ、イヤホンの人。好きなんでしょ？』




『…うーん、好きだけど、相手は私には興味ないし』




『そんなん聞いてみなきゃ分かんないじゃん。踏み出してみなよ、A高校生以来彼氏いないじゃん』




『そういうこと言わなくていいから(笑)』




『ごめんごめん(笑)Aにも幸せになってほしいからさ』




翔太くんと、か。なれると、いいけどな。

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