君がいるから 2 ページ12
――それから数日後。
カンパニーの稽古はいつも通り行われている。
今日は合同稽古の為、各組から2名ずつ、計8名での稽古。
珍しいメンバーでの稽古は、互いの刺激にもなる。
エチュードも今までとまた違った、いい味を出していて面白い。
しかし、皆はいつも通りなのに、私はあの日のことがどうしても頭から離れなくて、暗い気持ちを吹っ切ることが出来ていなかった。
稽古の内容は前日の内に計画を立てているから、何の問題もなく進められている。
エチュードの題材も決まっている。
でもどうしても、いつもみたいな、素直に演劇を楽しむ気持ちにはなれなかった。
休憩時間には、部屋の角に座って、皆の様子を眺めた。
皆の演技が、これ以上伸びない…それは私のせい…
そんな風に考え出したら、また黒いモヤモヤが頭を支配する。
一成「…監督ちゃん、大丈夫?何か体調悪い?」
『…。』
天馬「監督?」
『ん?何?ごめん、ボーッとしてた。』
万里「監督ちゃん、ちょっといい?」
至「次の題材なんだけど…」
『あ、うん!』
一成天馬「……。」
せめて、稽古の時はきちんとしなくちゃ。
そう思い直して、深呼吸をしてから稽古へと戻った。
稽古を終え、夕飯を済ませ、早めに自室へと戻る。
なるべく人に会わず過ごしたかった。
ただただ目の前の仕事に没頭する。
明日の稽古の内容検討、今後の公演期間調整、予算案の見直し、献立作り…
それでもふとしたときに、またあの言葉が蘇ってくる。
忘れたくても忘れられない。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
『……はぁ……』
深い溜め息をついて机に突っ伏す。
ここ数日まともに寝れず、流石に疲れは溜まっている。
睡眠薬でも飲めばいいのだろうか、とさえ思う。
それでもきっと、また思い出してしまうのだろうと思うと怖かった。
ふと隣に置いてあった鏡に映った自分を見つめる。
化粧では隠しきれなくなったクマ、色の悪い唇、ボサボサの髪…
女としてどうなんだ、と思わず苦笑が漏れる。
皆に心配を掛けてしまう前に、どうにかしなくては。
ひとまず、今の気分を変えようと財布とミュージックプレイヤーを手に部屋を出る。
コンビニまで音楽を聴いて散歩しよう、飲み物と甘いものでも買って、帰ってきたら口に入れよう。
そしたら気分が変わって眠れるかもしれない、そんな淡い期待を抱いていた。
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作者名:宇宙 | 作成日時:2018年6月29日 11時