満開な花を君に。2 (ページ11)

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君がいるから(摂津万里夢、落ち込んだ監督を慰めるお話) ページ11

あの日、あの場所へ行ったのが間違いだった。
ちょっとした出来心だった。
他劇団のお手伝いに行って、早く終わったから。
昔入っていた劇団のある街が近くだったから。
ただ、そんな理由で足を運んだあの街で、まさかあの人に再会してしまうとは…。

『うわー、久しぶり！何年ぶりだろう…』
｢…立花？立花じゃないか！｣
『っ…？！』

昔入っていた劇団の主宰の男。
表の顔がよくて、何かと劇団を成功に導いているやり手。
でも、内部贔屓が激しくて、私に演技の才能はないと言い放った男。

『お、お久しぶりです…』
｢久しぶりだな！いやぁ、お前がまだ演劇に繋がっているとは思わなかったよ。｣
『…というと？』
｢あんな大根役者、あとにも先にもお前しかいないよ。ある意味才能だな。｣
『っ…』
｢もう演劇から足を洗ったもんだと思っていたが…ここにいるってことは、未練でもあるのか？笑えるな。｣

そう言って高笑いをした。
本当に、相変わらず口が悪い。
溜め息が出そうになるのを必死で耐えた。

『ここに未練はありません。もう、私には新しい場所があるので。』
｢新しい場所？｣
『天鵞絨街にある、満開カンパニーという劇団の総監督をしているんです。もしよかったら、今度公演を見に来てください。』

本当なら今後一切関わりたくない。
だけど、ここは大人な対応を…
そう思って絞り出した言葉は、少しの間を開けたあと、大きな笑い声に消えていく。

｢お前が、劇団の総監督？！あはははは！！どんな冗談なんだ、立花！お前が監督なんかしてたら、劇団員が可哀想だな！｣
『…っ…』
｢ぺーぺーの、演技もできない奴が、総監督？！あー、何度繰り返しても面白い！ハハハッ！｣

確かに、演技の才能はないかもしれない。
それでも、精一杯やってきた。
公演も順調に皆こなしている。
それをこんな風に言われるなんて、悔しくて仕方なかった。

｢まぁそれが本当だとして、劇団員はお前が教えた演技なんかじゃこの先伸びないぞ。綺麗サッパリ足を洗った方がいいぞ。その方がその劇団の為だ。｣
『……。』
｢おっと、そろそろ行くよ。じゃぁな！｣

次々と放たれる言葉に、返す言葉が見つからないまま、去っていく男の背中を無言で見つめるしかなかった。
心が重く、身体がこのまま沈んでしまいそうだ。
私が劇団を辞めた方が劇団の為？皆が可哀想？
そんな言葉がぐるぐると頭の中を掻き乱していく。
私はその場から暫く動くことができなかった。