欲深い ページ25
急に掴まれただけなのになぜか痛くはなくて樹の手はとても優しかったんだ
「なんて？最後聞こえなかった」
真っ直ぐ私を見つめて呟いた樹を私も真っ直ぐ見つめる
言ってないから聞こえなかったのが正解なのにあたかもかき消されたみたいに
言葉を探す樹に言いたかったことを伝えられたらいいのに
言いたいことを言えないなんて
私はとてつもなく弱い生き物みたいだ
『ごめん』
少し眉を下げた私に樹は優しい顔をして
「なんで謝んの？
悪いことしてないじゃんなあ…
俺のことまだ避ける？」
少し掴んだ手に力を込めたのすらも優しく感じてゆっくり樹の手を離すと隣の北斗くんが呟いた
「情けは人のためならずってお前知ってる？
お前さ意外と情にもろいんだな」
北斗くんはおそらく見透かしてて
きっとここにいて私を見てるこの4人は
翔太と私の関係に気づいてるんだ
「行きな…俺は気長に待つから」
樹はそれでも優しく笑って優しい声で優しい言葉をかけたんだ
ゆっくり翔太の背中を追いながら
間違いなく樹のところに行ったのは私で
樹に手を伸ばしたのは私で
なのに中途半端に逃げたのも私
その時翔太は私と同じ迷子の目をしてたから
私は翔太からまだ離れることはできないんだ
情に流される私は
とことん弱くて
とことん中途半端な人間なんだとあの時実感した
ただ樹の触れた手はあまりにもあったかくて
もう少しもう少しって欲だけが深くなるんだ
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作者名：むぅ
| 作成日時：2018年4月29日 23時
