迷子の初恋 (ページ17)

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痕と傷ページ17

『ごちそうさま』

「誘ったの俺だし」

にっこり笑った彼は暗くなった外でも眩しくて

「家送るよ」

『近いけどね』

「どっちよ」

顎でしゃくって歩き出す

照らされるシルバーアッシュの髪はやたら綺麗で

所詮男はみんな欲に溺れるのだと

弱くて流される生き物なのだと

思いながら足を進めるのは誰も待たない私の家

『ここだから』

「近っ」

『言ったじゃん』

そのままエントランスに入ろうとした私の手を樹は掴む

『ん？なに？』

「また飯誘うわ
時間作ってくれてサンキューな」

『は？』

「は？なに？」

『あがんないの？』

「は？あがるわけないだろ？」

当たり前のように笑いながら言葉を出す樹を見つめる

家の前まで送られて

家に入らず

身体を重ねず

帰った人なんて私は知らない

『ヤらないの？』

呟いた私の言葉に樹は優しく笑うと私の頭に手を置いた

「俺そういうの興味ねえから
俺が好きで俺を好きな女としかしないから」

『つまんないね』

「俺からみればお前の方がつまんなそうだけどね
あ、ちょっとストップ」

ん？目を細めると樹はポケットから絆創膏を取り出して私の首筋にペタリと貼った

「傷はちゃんと世話して治さなきゃな
あ、痕かこれ」

なんて綺麗な顔で笑う

「俺が治してやるからあんま増やすなよなこれ」

絆創膏をチョンとたたいてもう一度私の頭を撫でると
じゃあな
なんて背を向けて歩いていく

絆創膏は渡されることはあったけど

貼ってもらったことは一度もなかった

樹の触れた首筋を触りながら

小さくなる樹を見つめる

消えてはつくのは身体につく痕

ただその度に心につくのは傷なんだ

弱くない強いはずだと思ってた

私の傷だらけの心に触れようとする樹はあまりにも優しすぎて

私みたいな人間が触れてはいけないと思い知る

私みたいな人間は底に沈めばいい

私は彼を傷つけられない

あまりも初めてのことや免疫のないことに今日は疲れただけと

そう言い聞かせ

ゆっくり部屋に入ったんだ