▽ LUV LUV. (ページ36)

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安田：夜間飛行ページ36

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部屋に着いた瞬間、何かのスイッチが切れたようにぐったりと玄関に倒れこんで、履いていたパンプスを乱暴に脱ぎ捨てた。

今日も一日、よく頑張りました。

『お疲れ様、私』

自分で自分をねぎらうなんてなんて悲しい人生。

でも自分以外、私を労ってくれる人なんていな〈プルルル〉

…あ、ひとりだけ。

『もしもし、』

だらしなく倒れこんでいた体を起こし、くずれたスーツを直して、背筋伸ばして正座して。

画面に映し出された名前に少しだけ高鳴る鼓動を隠すように、気だるそうにそう言った。

〈＿…あ、Aちゃん？〉

…あれ、期待してた声じゃない。

少し舌足らずで低いその声を聞いて、足をくずしながら、なんですか、横山さんって可愛げもなく。

〈＿今二人で飲んでてさ。ヤスめちゃめちゃ酔うてんねん〉

ヤス、ヤス。ほら、Aちゃんやで、と電話越しに横山さんが章ちゃんにそう話しかけるのが聞こえてきた。

〈＿…んあ、A～〉

ベロベロに酔ってるであろう章ちゃんの甘ったるいその声に、再び高鳴る鼓動を感じながら、少しほころぶ私の顔。

〈＿A～、会いたいぃ〉

可愛いなんて言葉じゃ収まりきらないぐらいの可愛さに、ニヤケが止まらない私の口元。
きっと多分、相当ブサイクな顔してる。

〈＿…ってずっとこの調子やねん、ヤス。
しまいにはAちゃんに電話せえ、言うて聞かんし。〉

ごめんな、迷惑やったなって横山さんが優しくそう言う。

そんなことないです、むしろありがとうございます。

『大丈夫ですか？横山さんひとりで。
私も行きましょうか？』

〈＿…や、仕事帰りやろ？Aちゃん。
疲れてるやろし、俺タクシー拾ってヤス送るわ〉

必要のない優しさとはあるもので、私はちょっとだけ横山さんを嫌いになる。

やだやだと駄々をこねてる章ちゃんの声が電話越しに聞こえてきて、あぁ、会いたいって、酔っ払って寄りかかって気持ちよさそうに夢見てる彼の頭をくしゃくしゃぽんぽんしたいなって。

『横山さん、私やっぱ行きます』

〈＿ん？〉

『章ちゃんに、私も会いたいです』

終電もすぎちゃって、クタクタで、ほんとは一歩も動く気すらなかったくせに。

脱ぎ捨てたままのパンプスをよそに白いスニーカー履いて、家の鍵と携帯だけ握りしめて。

愛しい愛しい彼の元に。

＊夜間飛行
( 夜空を飛んで会いに行く)

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