▽ LUV LUV. (ページ28)

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錦戸：メリー・ウィドウページ28

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その時はもうどうしようもなくむしゃくしゃしてて、

仕事では残業続きだし、そのせいで彼とは疎遠に。

こんな時、私が決まって和みに行ける場所が一つ。

「いらっしゃい」

『こんばんは』

路地裏にあるこのバーは私の中でイケメンだと話題のオーナー一人で経営している隠れ家的なお店。

「それで？今日はどないしたん」

まだなにも言ってないのににっこりと笑いながらそう言ってくれるのは、私がここに来る時はいつもマスターに何か相談したいときだから。

彼と付き合えたのもマスターのおかげだし、そんな彼と疎遠だって言うのなんか申し訳ないけど

『…殺されるんじゃないかってぐらいに仕事は任されるし、彼とは音信不通。もう嫌になる』

タンブラーをトレシーで丁寧に拭いているマスターの横顔にオレンジ色の照明が当たって大人な雰囲気を醸し出してる

いつ見ても素敵で、こんな人を今、私が一人で独占できてるなんてちょっぴり優越感に浸りながらジントニックを一口

「お疲れさま、よう頑張ったな」

その一言で溜めてたたくさんのストレスが一気に目から溢れ出してきて

『なんで私だけがこんな辛い思いしなきゃいけないんだろ』

今の私、すっごくダサい
灰色のスーツの袖で涙を拭い、残りのジントニックを流し込んだ

おかわりってマスターに言ったら、今日は特別におごったげる、そう言ってシェイカーを手にした

氷がグラスに入る音と、バーに流れる静かなクラシックに酔いしれながら、まだ赤いであろう目をごしごしこする

『マスター』

「…ん？」

『私このお店大好き、マスターの作るカクテルもお店の雰囲気もマスターも。』

ありがとって微笑むマスターにこちらこそと返す

あんまりお酒が強い方でもない私の中でさっきのジントニックが回り出した

「はい、どうぞ」

そう言って私の前に出してくれたカクテルは鮮やかな赤い色を放っている

「メリー・ウィドウです」

マスターが言うにはカクテルには花言葉ならぬカクテル言葉って言うのがあるらしい

カクテル一つ一つに込められた思いがあるなんて素敵

『マスター。
メリー・ウィドウのカクテル言葉ってなに？』

グラスを傾けながらそう聞いた

カウンターでまたトレシーを手にしたマスターは微笑んで、

「もう一度、素敵な恋を」

相手はあなたがいい

*メリー・ウィドウ
(やっと気付くの)
(ほんとの気持ちに)

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