Dream 10 ページ10
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｢で、阿川さんは俺に何で電話してきたの？｣
落ちたスマホを渡されるのと同時に聞かれやっと本題を思い出す。
電話をかける前、何度も"これは仕事だ"と言い聞かせたのに、案の定、そんなおまじないは効かずじまい。
原因は黒尾くんに対する自惚れだが、全ての根本はこの胡散臭いヤツなのだ。
｢バレーボールのこと教えてほしくて、｣
｢……ふーん｣
｢これ、｣
鞄から貰った資料を取りだして、黒尾くんに見せる。
｢……へぇー、
｢そう、私が記事を書くことになったの｣
｢最近誰かさんのおかげで有名になってきたからね｣
｢人気の火付け役がいる、ってこと？｣
｢………さぁ？
そこは自分で見つけなさいよ、ご立派な記者さん？｣
煽るかのような言い口に悪い顔。
本調子に戻ってきたヤツに次こそは負けじと真顔を保ったまま無視して、試合が行われているメインアリーナの方に視線を戻す。
｢あー、俺、機嫌損ねちゃった？｣
｢いえ、別に。上機嫌です｣
｢言葉と顔がミスマッチ過ぎなのよ｣
｢ルール説明してもらっていい？｣
｢それが人に頼みごとする時の言い方かね｣
さっきまで緊張でカチンコチンだったくせに、と若干の溜息をつくものの試合状況に合わせてルール説明を始めてくれる。
ローテーション、ディグ、レセプション、と横文字が並ぶが黒尾くんの説明はとても分かりやすくて初心者の私でも簡単に理解できた。
京治くんと信行が黒尾くんを勧めた理由もよくわかる。
……ま、この口上手さが胡散臭いと言われる所以なのだろうけど。
｢…あ、今、ブロック騙すために打つフリしたってこと？｣
｢そう、理解がはやいねーAちゃん｣
｢さりげなく名前呼びするのやめてもらっていい？｣
｢冷た｣
無心でいれば、こんなヤツなんてどうってことないかもしれない。
現に、詐欺師に騙されることなく対応できている。
こんなに手馴れた様子で呼び名を変えてくる黒尾くんのことだ。
昨日言われたあの言葉も。
私の自惚れを好都合だと言い返したのも。
黒尾くんにとっては息を吐くようなもので特に意味は成さないのだ。
｢ま、でも。
阿川さんとこうやって一緒にバレー見れるなんて夢みたいだな｣
これも、ただ黒尾くんは息を吐いただけ。
そう思い込んでしまえばいい。
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作者名：倫 | 作成日時：2023年6月30日 15時
