Dream 9 ページ9
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｢昨日ぶりだね、おネーサン｣
手の中にあるスマホからほんの少し遅れて
同じ言葉が繰り返される。
端の方で立って試合を見ていた私の隣にきた黒尾くんは
平然とした顔で電話を切ってスマホをポケットにしまう。
……何で、黒尾くんがここに、
｢……何で俺がここにいんの？って顔だな｣
｢っ、｣
｢俺、実はスーパーヒーロー的な特殊能力あんだよねー｣
｢…｣
｢助けが必要なときはいつでも駆けつけられんの｣
黒尾くんに用事があって電話をかけたけれど
いざ隣に来られるとどうしたらいいかわからなくて。
場を和ませるためのあからさまな胡散臭さにもうまく応えられず
どこを見たらいいのか視線が彷徨う。
｢…まー、そんなに怖がらないでちょーだいよ。
昨日みたいに困らせるようなこと言わないからさ｣
昨日魅せた怪しげなものとは違って
どこか寂しげで優しい表情が私をとらえる。
____ ガコンッ
その瞬間、力が抜けて耳にあてていたスマホが手から滑り落ちて床に衝突する。
笑顔なのにどこか悲しい感じのそれに不意をつかれたような。
そんな、不思議な感覚。
｢おネーサン、スマホ落としましたよ｣
｢…あ、ごめん、｣
今、目の前で何が起こったのかよく理解できないまま
黒尾くんがしゃがむのにつられて私も落ちたスマホに手を伸ばす。
｢……っ！｣
伸ばした先で、ただ少し指先が触れた。
それだけだったけど、私を惑わせるには十分すぎるくらいで。
｢……あー、やっぱ前言撤回｣
触れていた指先はそのまま私の腕を掴んで下の方へ引っ張り込む。
自ずと足を曲げてしゃがむ体勢になれば
黒尾くんの瞳の中に映り込む自分自身の顔。
｢……阿川さんの自惚れ、俺嫌いじゃないよ｣
｢…っ、！｣
｢むしろ好都合だね｣
｢……こ、困らせるようなこと言わないって、｣
｢さっき前言撤回って言ったじゃん｣
私の知っている胡散臭い黒尾鉄朗に戻ったのか
さっきの優しい笑顔とは取って代わって
意地悪そうな笑みを見せる。
黒尾くんの瞳の中に映る自分自身の表情も
それに合わせて変わったのが目に見えて
烏滸がましい自惚れがさらに確立されていく。
やっぱり、黒尾くんには敵わない。
騙されて引っかかった方が、負けるのだ。
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作者名：倫 | 作成日時：2023年6月30日 15時
