Dream 5 ページ5
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日曜の21時前。
私たちのように歩いている人は疎らで
2人だけの歩くペースが確立されていく。
送られている側なのに何故か
私が黒尾くんについて行っているように感じられた。
｢今日入口で会ったとき、怖がらせてごめんな。
こんなデケェ奴にいきなり話しかけられたらビビるよね｣
｢黒尾くんのこと覚えてなかった私が悪いので
気にしないでください｣
｢いやいや、俺らそんなに話したことねーし覚えてなくて当然だ｣
｢…｣
｢だから阿川さんは何も悪くないよ｣
じゃあ、なんで黒尾くんは私のこと覚えてるんだろう。
頭にひとつ疑問が浮かんだが言葉に出す勇気は無く
変に居心地の悪い動悸と共にただひたすら黒尾くんの隣を歩く。
｢……その顔はー、
俺が阿川さんのこと覚えてるのを不思議に思ってるって顔だな｣
｢！｣
｢…次は図星って顔だ｣
まるで心を瞬時に読みとっているかのような言い方に、さらに動悸が加速して、覗き込まれた顔がどんどん熱くなるのがわかる。
｢研磨以外の音駒生で阿川さんのこと覚えてない奴なんて
多分いないと思うよ｣
｢……そんなの、有り得ない｣
｢……ま、確かに。これは俺の勝手な推測でしかないしね｣
そう言いながらこちらに向けていた視線を上に移す。
送られている側なのについて行っている感じがするのはきっと
黒尾くんが発する言葉を理解しながらついて行くのに必死だからだ。
｢……それに阿川さんのこと音駒で1番綺麗だと
全員が思ってたと思うんだけど｣
｢……それも黒尾くんの勝手な推測だよね｣
｢ま、そうなんだけどさ｣
上に移したはずの視線がまた戻ってきて
黒尾くんが怪しげに笑う。
まるで勝ちを確定しているような詐欺師のように。
｢俺は阿川さんのこと忘れたことないし、
今まで出会ってきた女性の中で1番綺麗だと現に思ってる｣
｢…っ！｣
｢……ま、これも推測だって思うんなら思えばいいよ｣
ありえない。
本当にありえない。
｢…っ、何それ｣
詐欺師の言葉に惑わされて
そのまま信じそうになる自分が、ありえない。
言い聞かせたはずだ。
これは胡散臭さにだまされて夢を見ているだけだ、と。
｢……どう思うかは阿川さん次第ってこと。
答え合わせはまた今度、な｣
焦りなのか、困惑なのか、はたまた夢心地なのか。
駅で黒尾くんと別れたあとも居心地の悪い動悸は続いた。
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作者名：倫 | 作成日時：2023年6月30日 15時
