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Dream 12 ページ12

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「生2つで」




代々木体育館を出てすぐ近くにある大衆居酒屋。
月曜の夕方で空いていたため、スムーズに中へと案内される。

体育館を出てから黒尾くんが店員に注文をするまで、たったの15分。
そんな短い時間の中に逃げるタイミングがあるわけもなく、終いには店の中で一番奥のテーブル席に通されてしまった。

逃げ道の完全封鎖により軽く絶望するなか、目の前に座る詐欺師は呑気に品書きを見つめている。






「俺、Aちゃんの好きなお酒絶対当てれると思うんだよね」

「……またさりげなくちゃん付けしないでもらっていい?」

「いいじゃん、せっかくの"デート"なんだからさ」

「…っ、」





胡散臭さ全開の言葉にできるだけ無心で返したつもりだったが、その方法はもう無効になったようで。

"デート"と改めて強調する黒尾くんに、分かりやすく動揺して言葉につまってしまった。


そのタイミングで頼んだ飲み物が届く。

互いにグラスの取っ手に手を伸ばし、視線はビールの泡がなくなっていく様子をとらえるだけ。


どうしたらいいのか、自ずとグラスを握る手に力が入って顔を上げることさえできない。


泡の動きが少し落ち着いてきたころ、視界にもう一つビールが映る。





「…まー、今日は一緒にバレーボール見た記念ってことにしとこうぜ」





____ あ、それ、今日で2回目だ。

もう一つのビールの正体はもちろん目の前に座っている黒尾くんのもの。
落ち着いた声色とともに届いた表情は今日体育館で不意をつかれた笑顔と同じで。

また不思議な感覚に陥っていく。





「はい、かんぱーい」

「…乾杯、」





グラス同士のぶつかる音が2人の間で響く。

何が起こったのかよく理解できないまま、グラスを口に当てる。






「おねーさん、結構いくね」

「…黒尾くんこそ」

「俺は体大きいからいーの」

「なにそれ、」

「それに、嬉しいときはたくさん飲みたくなるじゃん?」





おねーさんもそういう人でしょ、なんてさっき見せた優しい笑顔は嘘かのように意地悪にそう言って。

調子の良さが戻ってきた詐欺師は2口目にしてグラスの半分を飲み干した。



バーナム効果ってやつだろうか、自ずと私も大きな2口目をむかえていた。

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作者名: | 作成日時:2023年6月30日 15時

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