episode 29 ページ32
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ジャージ姿の赤葦くんを見るのは林間学校以来だ。
あぁ、なぜ今思い出す。
首元に当てられたあの冷たいペットボトルを。
やめてくれ、私の目。奴の口元を視界に入れるな。
…………もうこれも昨日のあの声と言葉のせい。
私の腕を未だに離さない手の思惑通りになっているかもしれないと思うと悔しい。
｢あ、この腕の青いペンキ隠した方がいいよね｣
そう言って手を離し着ていたジャージの上着を
さりげなく私に借してくれるあたり
俺は何も気にしてません、って言われてるみたいで。
自分だけが意識してるみたい。
頭から離れないあの小さな声を
昨日聞こえないふりをして対応した私が悪いのかもしれないけど
それでもやっぱり何か悔しくて。
学校を出たところで今度は逆に
ジャージを脱いで部活着姿になった赤葦くんの腕を私が掴む。
｢………ねぇ、もう1回聞くけど保健室で私が言ったこと覚えてる？｣
｢うん、はっきりと覚えてる｣
｢……っ、なら何で観察力使うの。
さっきも私が沙羅と奈々に無理して笑ってたの気づいて
ここまで連れ出してくれた。
保健室で私が言いたかったことわかってるくせに、｣
これ以上自分を崩される悔しい思いしたくないのに。
艶やかな笑顔が私を揺さぶる。
｢自惚れたままでいたいんだよね、俺が｣
真っ直ぐ届いた言葉が
必死に積み上げてきたものを揺れ動かして
あとひと押しされれば倒れそう。
｢勝手だっていうのは十分承知。ごめん。
でも、やっぱり自惚れてたい。
"芯"を埋める場所ができるまで｣
グラグラ揺れてできた隙間に
私の中で4月と一緒に区切りをつけたはずの気持ちが
芽生えようとしている。
言葉の仕掛けとか思惑とかそんなんじゃなくて
鋭いけど真っ直ぐで優しい瞳が
私に例外を選ばせようとしてくるんだ。
｢無いものは作ればいいって教えてもらったから
言う通りにしてみようと思うんだ。
これは俺のわがままだしAは何もせず
流れに身を任せればいい。
だから今回も俺の勝手で連れ出しただけ。
何も気にしなくていい｣
"わがまま" "勝手"
この2つが無理やり自分を納得させた考えを否定する。
"縛り"があるから私に構ってくれるのではない、と。
"自分の意思でそうしてる"って教えてくれるその言葉に
体の中心が熱くなる。
｢……………A、泣かないで｣
積み上げてきたものは綺麗に崩れた。
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倫(プロフ) - カルマさん» ありがとうございます！コメント嬉しいです！頑張りますっ......！ (2020年6月19日 23時) (
レス) id: 48fe9f4fbb (このIDを非表示/違反報告)
カルマ - この作品大好きです!完結まで頑張ってください! (2020年6月19日 20時) (レス) id: 7ca463c807 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：倫 | 作成日時：2020年5月2日 0時
