恋愛エクスタシー [Yuto] (ページ29)

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30. Why? ページ29

『甘えん坊』

そう言われればそうかもしれない

でも、風邪だからだろうか

いつもと違う思考を持った私の中のもう1人の自分が

ムスっとした顔で

反抗したい気持ちになったのかもしれない。

「そんなこと…ない、もん」

言葉とは裏腹に

目の前のシャツを掴む指先は握力を増して

すり寄せた頬はより一層彼に押し付けられてる。

そんな私の行動にやっぱり笑った彼

「うそつき」

態とらしく耳元で意地悪く囁かれた言葉に

ビクッと上がった肩

それを見逃すはずがない彼は

熱を含んだ視線で

「A…」

見つめてきた。

ゆっくり近く綺麗な顔

唇に吐息がかかったその時

「…え？」

「物欲しそうな顔しちゃって、そんなにして欲しかったの？」

まさかの寸止め

「べつにほしくないし」

予測してたものをもらえなくて

ぶくっと唇を尖らせれば

「今度、Aが元気になったらたくさんしてあげる」

まるでホンモノの彼氏のように

宝物を見つめるような

その視線にやっぱり恋い焦がれる私。

三日月に細められた目元は

私の首筋に鼻をすり寄せた瞬間

鋭いものへとかわった。

「これ、…」

「ん？」

不機嫌な声でクンクン匂いを嗅ぎ始めた彼に

「ん、…くずぐったっ」

「A…。風邪、治すために早く寝な」

脇の下に手を通されて立たされる

「う、うん」

「じゃ、また明日様子みにくるから」

慌てたように立ち上がって玄関へと向かっていってしまう後ろ姿を

何もできずに見つめるだけ

「ゆーとくん…」

熱のせいからか呂律が回らない舌で発せられた名前は

チリとなって無情な天井へと消えていった。

___________

Yuto

なんで、なんでなんでなんで

「なんで…」

なんでAから那須の匂いがするんだよ

見上げた星空は眩く、儚い、純粋な光を放っていて

自分の黒さが

より一層際立っているような気がした。