29. Your body ページ28
「ありがとう。」
「お大事にしてください！」
「じゃ、また。」
「ほんとにここまででいいんですか？」
「ふふ。なすくんやさしいね」
いえ、そんな。
顔をボンって真っ赤に染めるその姿が可愛くて
キュンって柄にもなく萌える
そんな風邪の日もありですよね。
あの後、律儀に家まで送り届けてくれた彼は
ポケットの中で震えたケータイを耳に当てながら
少し心配そうに、それでいて申し訳なさそうにお辞儀して帰って行った。
その後ろ姿を見送って
真っ暗な家の中で1人ソファーまでよろけながらも
たどり着いて倒れ込んだその先にあったのは
「おぅわっ⁉」
「へぇ⁉」
柔らかい何か。
「ちょ、やっ⁉」
「落ち着け！A！」
真っ黒いその物体は
馬乗りになって向かい合わせで寝転がって慌てる私の腰を片手でぐぃっと掴んだまま
熱くて、火照った頬を
熱くて、汗でしっとり濡れた前髪を
その大きい手のひらで撫でた。
「な？俺だよ？」
ふわっと香ったその甘い純白なお花のにおい
優しく髪を梳く指先
細いのにしっかりと筋肉がついてるその身体
あったかくて、心地いいその体温
「ゆーとくん？」
「ふふ。」
せーかい
嬉しそうな声で起き上がる気配がして
そのまま腰と背中に手を添えながら向かい合わせで優斗くんの膝をまたいで膝立ちのような体勢になった私。
その体勢も相まって
薄暗い部屋の中で見えたのは幼い頃からよく知ってるやさしい色をした瞳だった。
「ゆとくん」
“ふふ。ゆうとくんですよー”
ギュってその首に抱きつけば
諭すようにトントンって背中を一定のリズムで撫でる手つき。
小さい頃から
優斗くんが安心するためにやってくれてたこと。
「A身体あっつ」
「へへ。ねつ…でちゃった」
ゆらゆら
その細いのにたくましい腕に抱きかかえられ、安心して腰を下ろす私を見て
また優しく笑いかけてきた優斗くん。
「連絡しなきゃダメでしょ。」
「んぇ？」
「心配…だから。」
より一層ぐっと抱き寄せられて
大好きな彼との距離がゼロになった。
近くなる距離に比例して
身体を包み込む彼の香り。
嬉しくて、2人っきりでただいっしょに過ごすだけの時間が懐かしくて
思わずその制服のシャツに顔を擦り付ければ
「甘えんぼだね」
耳元に流れ込んでくる掠れた声に
ドキッと甘く、でもなぜか切なく締め付けられる乙女のココロ
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作者名：ぽん | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2018年6月21日 4時
