月に寝転んで (ページ7)

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「俺でいいの？逃げ出したような、俺で。」

ふっかは笑った。
ずっと変わらないやさしい笑顔で。

「阿部ちゃんだから、いいんだよ。
優しくて、一生懸命で、誰よりもひたむきで。
俺はね、阿部ちゃんこそが、誰よりも人と関わる仕事が向いていると思ってるんだよ。

大切な従兄弟だからこそ、一番信用してる阿部ちゃんに任せたいの。」

目頭が熱くなって、なんだか泣きそうになった。

「…うまく、できるかな。だって俺…患者さんを…」

「前も言ったけどね、あの患者さんは無くなってしまったけれど、阿部ちゃんが担当してから、苦痛を訴える回数がぐんと減ったんだよ。
痛いとか、眠れないとか、そういうののコントロールがすごく上手だって、患者さんが嬉しそうだった。
長く生きるのも大切だけど、それよりも楽しく、元気に、好きなことをして生きることの方が、重要だと思う。

大介のこと、助けてあげて欲しいんだ。
一人で生きるんだって、ずっと頑張ってるの。

出来ないことを認められないから、無理して怪我して、出来ないことに傷ついてる。

多分、身内じゃダメなんだと思う。
あの子は、俺にも、家族すらも、頼るもんかって意地張ってるから。

せめて、少しでも身体が動くうちは、楽しく過ごさせてあげたい。」

ふっかの訴えは悲痛だった。
詳しくはないけれど、彼の病気に関する論文は読んだことがある。
30歳になる前には、ほとんどが神経症状によって寝たきりの状態になる、嚥下障害も進み、ご飯を口から食べられることも、難しくなるだろう。
そして、俺の記憶が正しければ、この病気にはもう一つの大きな問題がある。

「…ふっか、大介くんって…」

ふっかは俺の言わんとしていることを察したのか、小さく頷いた。