月に寝転んで (ページ6)

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「今は本人の希望もあって一人暮らししてるんだけど。
段々と、できないことも増えていくと思うんだ。
最近は関節拘縮も顕著でね、リハビリはやってるけど、日によっては動くのが難しい日もあるみたい。」

「それは…残念、だね。」

なんで俺はこんなことしか言えないんだろう。
大介くんの辛さを思うと胸が苦しくていっぱいになるのに、その気持ちを表せない。
何か言ったらふっかや大介くんに失礼になるんじゃないか、そう思うと怖くて、ありきたりな言葉しか口に出せなかった。

「大丈夫。わかってるよ。」

ふっかはそんな俺の心情なんてお見通しなのか、ゆるりと笑って、甘いカフェオレを勧めてくれた。
一口飲むと、ちょっぴり心が軽くなる。

「少し人嫌いなところがある子だから、ヘルパーさんを雇うのに抵抗があるんだよ。
でも、飼ってるニャンコのことは大好きだから、阿部ちゃんはニャンコのお手伝いさんって名目で、彼のこと見守って欲しいんだ。」

そう語るふっかの顔は心配そうで、大介くんのことを愛しているんだなってことが、心の底から伝わってきた。
途端に不安になる。
俺でいいのかな、俺なんかで良いのかな。

俺はもともと、ふっかと同じ病院で働いていた。
自分で希望を出して進んだ診療科に配属されたけれど、タイミング悪く先輩が次々に辞職して、新人の俺が引き継ぎもそこそこに何人も担当を持つことになった。
幸いなことに周囲の人には恵まれていたから、上司や看護師さん、色んな人の力を借りて、俺なりに精一杯患者さんに向き合った。つもりだった。

しばらくして、先輩から引き継いでいた受け持ちの患者さんが、1人亡くなった。

周りは悲しいことだけど、仕方ないよ、阿部先生の責任ではないよ、そう慰めてくれたけど。
もし俺じゃなくて他の先生が担当していたら、その人は助かったんじゃないか。
先輩は、患者さんを殺した俺を恨んでるんじゃないか。

そう考えると、ご飯が喉を通らなくなって、なんだか眠るのも難しくなった。
無理をして勤務は続けていたけれど、俺の最悪すぎる顔色を心配した上司から、休職の打診を受け、俺は逃げるように承諾した。