月に寝転んで (ページ14)

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その日は、スマホの着信音で目が覚めた。
時間は11時半。火曜日だから、大介の家に行く予定も無く、惰眠を貪っている最中だった。

着信元は、大介だった。
彼が電話をかけてくることなんて滅多に無い。眠気が吹っ飛んで、慌てて電話に出た。

『あ、ぁ、あべちゃ…』

佐久間の声は震えていて、只事では無さそうだった。
俺は急いで家を出て車に乗り込む。

「どうしたの？」

『あの、ね、シャチが…シャ、シャチが脱走しちゃって、どうしよ…探さないと。』

窓の外に目をやる。
昼間ということもあって、今は太陽光が燦々と降り注いでいた。こんな日差しの強い場所に出たら、大介にとっては命取りになる。
俺は努めて冷静に言葉を紡ぐ。

「今、大介の家に向かってる。
あと10分くらいで着くから、大介は家で待ってて。
マンションの周りも、よく探してみるから。
絶対家で待っててね。」

『わ、わかった…。』

泣いているのか、大介の鼻を啜る音が聞こえる。
出来る限り車を飛ばして、ようやくマンションに辿り着いた。念のためマンションの裏まで確認したけれど、シャチらしき影を見つけることは出来なかった。

合鍵を使って家に入ろうとすると、玄関の鍵は空いていた。ゆっくりと扉を開けると、玄関近くの廊下で泣きながら座り込む大介の姿があった。
手や頬には擦りむいたような傷があり、手首は真っ赤に腫れ上がっている。

「ごめんね、お待たせ。」

「あ、阿部ちゃん…、」

「大丈夫？怪我してる。何があったの？」

「玄関の前に荷物があったから取ろうとしたんだけど、俺、ドジだから盛大に転んじゃって。
暫く動けなくて、そしたら心配したシャチがゲートを抜けてこっちまで来ちゃったんだよ。
慌てて、来ちゃダメって言ったんだけど、俺が大きい声出したからビックリしたのか、そのまま外に…。

本当にごめん、でも、俺の代わりにシャチのこと探して欲しい…。
あの子、怖がりだから、絶対怯えてる。
車も多いし、事故にあってるかもしれない。
急いで見つけてあげないと、俺、心配で…」