月に寝転んで (ページ11)

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「いたっ」

作業中の阿部ちゃんから悲痛な声が上がる。
俺は慌てて阿部ちゃんの方へ向かった。

「どうしたの？大丈夫？」

「あー、ごめん！指切っちゃった…」

「本当だ、痛いね…。
シンクで血流して、ティッシュで押さえてて。絆創膏取ってくるから。」

「ありがと、ごめんね…」

「全然大丈夫だよ、組み立ててくれてありがとうね。」

リビングの救急ボックスから絆創膏を拾って阿部ちゃんに渡した。幸いなことに傷はそこまで深くないみたい。
意外とドジっ子なんだな、阿部ちゃんって。

「ごめんね…」

「大丈夫だって！手、痛くない？
もうすぐコーヒーできるから、休憩しよ。」

コーヒーメーカーのポットを持って、カップに注ぐ。いや、注ごうと思ったけど、手が震えてポットが手から滑り落ちた。
「…熱っ」
ポットから溢れたコーヒーは俺の腕に降りかかった。しかも運の悪いことに、ポットが落ちた衝撃でコーヒーカップとソーサーは粉々だ。
最悪。お気に入りのやつだったのに。

「大丈夫？！」

「大丈夫だよ。座ってて！今片付けるから。」

必死に平静を取り繕って、まだ震える手で割れたカップを掴む。うまく掴めない自分にイライラして、乱暴に破片を掻き集めた。
恥ずかしいし、情けないしで、火傷の痛みも、破片で切れたての痛みも、何も感じなかった。

前まではちゃんと出来てたのに。
コーヒーをいれるなんて、簡単なこと、何でできないんだろう。

怒りと恥ずかしさで更に手が震える。
自分を痛めつけて、罰することで体が動くようになるなら、いっそ全身をバラバラにされても良かった。