月に寝転んで (ページ1)

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おつきみ（桃）ページ1

「さっくん、ニャンコのためだよ。」
「…むう」

ふっかの口から飛び出してきたのは、予想外の言葉だった。ニャンコのため、なんてさ。ずるいよ。
シャチとツナのことを出されると、途端に何も言えなくなってしまう。可愛いあの子たちのためなら、俺はなんだって出来るもの。

「いいってことね？」
「んー、ん、うん」
「おっけ。連絡しとくね。
阿部ちゃん。良い子だよ。良い子すぎるくらい。」

ふっかがそう言うってことは、本当に素敵な方なんだろう。彼は人を見る目がある。俺なんかよりもずっと。
阿部、さん。
俺の、お手伝いさんになってくれるひと。

お手伝いさんを雇うことにずっと抵抗があった。身の回りのことは自分でやりたいし、人と一緒に過ごすのはあんまり得意じゃない。

ふっかから幾度となく提案はされてきたけれど、ずっと首を横に振っていた。
でも、可愛いウチの子を引き合いにだされたら別だよ。
ツナとシャチのためにお手伝いさんを雇うなら、まあ、仕方ないか。

「じゃあ、退院おめでとう。
無理は禁物だからね。」

「へいへーい」

「翔太、来てくれてるんだよね。」

「うん。」

「ま、よろしく言っといてよ。」

「ん、じゃね〜。」

ふっかに見送られながら杖を掴んでゆっくりと歩く。
足を地面に置いて、離して、ゆっくりゆっくり。
年々、手足が動かなくなっていくのを感じる。痺れた棒切れみたいに、まるで自分の身体じゃないみたい。
指先を使うのもぎこちなくて、杖とスマホを握るので精一杯。

30歳になるまえには、寝たきりになるだろうって言われてる。
それはそれ、これはこれさ。

今は歩ける。
ご飯も美味しいし、どこにだって行ける。

お手伝いさんが来たとしても、自分のことはちゃんと自分でやろう。

俺は、一人で生きていけるんだから。