聞きたかったこと ページ4
With：Hans Christian Andersen
Side：You
かちこちと時を刻む時計の音
すらすらと紙を滑る万年筆の音
ぱらぱらと本を捲る音
それだけが部屋に響く。
こういう無機質で、平和な時間も悪くはない。心が安らぐ…。
だがまぁ、正直に言うと❝退屈❞。それ以外の何物でもない。
というわけで、日頃気になっていたことをズバリ！この部屋の主、アンデルセンに聞いていこうと思う。
『ねぇ、アンデルセン』
「なんだ。今の俺は締切3日前でとてつもなく忙しい。」
『じゃあ、簡潔に…。
アンデルセンってさ、史実だと生涯独身を貫いたって…有名じゃないですか。』
「それがなんだ。」
『ということは、死ぬまで童貞だったんですか。』
「 ・ ・ ・ 」
ペン先が折れる音が部屋に響く。
どちらが喋るでもなく、静かで重たい雰囲気が部屋に広がる。
私はこの雰囲気に耐えられなくなり、沈黙を破る。
『アンデルセン？』
「…だったらなんだと？」
『生涯を共にした伴侶がいなかったアンデルセンが恋愛物語を書いたのかあ、って考えると少し面白いなぁって…。』
「余談だが俺は、親以外から貰う愛は分からないが❝恋❞というものはわかる。
生前何度も恋をした。だが………ああいや、やめておこう。マスターといると多くを話しすぎてしまう。」
『ふふふ、意外です。なんだかアンデルセンって、生前は早々に身を固めているイメージでした。』
「そうかそうか、この話はもう終わりだ。
ああほら、さっき言っただろ。俺は締め切りに追われている。追っかけ回されている。まともに眠れていないんだ、珈琲でも出せ。砂糖なし濃いめでな。」
『はぁい』
アンデルセンの話を聞けるなら、無機質な音が響くこの部屋もいいかもしれないなあ。
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作者名：聖 | 作成日時：2020年5月20日 2時
