目の前の君と (ページ8)

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「ごめん、気持ち悪がらんといて。職場調べたとかそんなんじゃないから。実は昨日がはじめましてじゃなくて。ずっと前、君に接客してもらったことがあったんよ。それで、覚えてて…」

突然私の前に現れた人。
昨日私の目の前に座った男の人。
突然わたしを怒った人。
初対面じゃなかった？お客さんだった？
いろんなことに頭がついて行かない。

「ちょ…ちょっと待ってください。な、なんの御用でしょうか。仕事中ですので。」

「ごめん、本当にごめん。謝りたくて。あんな事俺が言う筋合いなかったよな。嫌な気持ちにさせてしまった。本当にごめんなさい。」

「いや、だから待ってください。私別に…」

1人で喋り続けるこの人は私の話を聞いてくれない。

「あ、俺。川西っていいます。川西賢志郎。芸人やってます。和牛っていうコンビで。君は…」

早口で喋ったと思えば突然黙って私の首にかかったネームプレートに視線を落とす

「ゆうしろ…？」

「ゆいき、結城A…です。」

勢いにつられて名乗ってしまう

こんなはずじゃないのに
もっと慎重にならなきゃいけないのに

「Aちゃん…あ、ありがとう。とにかく本当にごめん。ま、また本。買いに来ます」

突然現れ、嵐のように去っていった彼。
変な謝罪、変な自己紹介。

私の平穏なサイクルを壊す人。

店内には22時の閉店を知らせる音楽が流れていた。