目の前の君と (ページ15)

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彼がまた来ると言ってから随分と日が経った
何日か数えるのは虚しくなるからやめた。

大好きな仕事場で本以外のことを考えるようになってしまったのは紛れもなく彼のせいだ。

川西賢志郎さん。

また来るなんて言葉を残すから気になっているだけ。あの時の彼は私の言葉なんて聞いてくれなかったから。嵐のように去っていったから。

なんで私がこんな言い訳めいたことずっと考えているんだろう。

結局彼が来ないまま退勤時間を迎えた。

そこから近所のスーパーに向かう

一人暮らしにももう慣れた。

適当に食材を買って、明日のお弁当の分も。

また本屋の前を通って家に帰る。

その時本屋から早足で飛び出して来た人は
私が待っていた人だった。

今までは気づいていなかった。
でも駅に向かって歩きだす背中を見たときにああ私はこの人を待っていたんだと自然に思った。

待って。

自然に声が出た。
きっと少女漫画のヒロインならここで大きな声が出るんだろうな。

私から出た声は、じめっとした夏の夜の空気に溶けてしまいそうな小さな声だった。