【実l況l者】魔法の言の葉【短編集】

運命の言の葉/rt ページ47

「運命って信じる？」

今でもはっきり覚えてる。
クラス替え当日に人見知りの俺に急に話しかけてきた。
中学生みたいな質問の内容に怪訝な顔をしたけれど、座っている俺の机の前に立っている制服の女の子は高3になったというのに見たことがなかった。
スカートも短く、ワイシャツも第二ボタンまで開けていて、俺とは相容れない人種だと一瞬で読み取った。
そりゃ、知るわけない。
だからと言ってコミュ障の俺は人の目も見れない。
目のやり場に困って、俯いたまま「……信じない」と答えた。
「そっか、わたしは信じる」
自信満々の声色に気付いて顔をあげると陽の光に当たった茶色がかった髪と雲ひとつない空に光る太陽みたいに晴れやかな笑顔に見惚れた。

「俺、用事あるから先落ちるねー」
「おー」
「俺もー」
「ゲ、キヨと2人かよ！」
キヨくんのデカいツッコミが聞こえる前に落ちた。
結局、実況撮るっつって繋いだのに雑談で終わった。
別によくあることだし楽しいし気にしてない。
だけど、今日は本当にどうしても優先しなきゃならない用事があった。

花粉で格好つかないのは嫌だと渋っていた耳鼻科に行き薬で1ヶ月慣らした。
眠くて動画投稿するのも本当に辛かったけど何とかやって来れた。
それも今日で終わる。
結果はどうあれ、明日からは花粉と戦いながら動画投稿する。
花粉と眠気なら、まだ花粉の方がいい…気がする…言い切れませんけどね！
まだ肌寒い外に出る為にコート羽織って入念に準備したリュックの中身を確認する。
ドレスコードのあるレストランなんて恥ずかしくてそれっぽくて予約なんか出来なかった。
本当にすまん、悪いとは思ってる。
でも俺だってこれが精一杯なんだ！！

ガチャとドアを開けて、待ち合わせ場所へと急いだ。
歩く度に揺れる箱の音なんて聞こえないのに鼓動の鳴る音がその音の様に思えて緊張が増す。
今日は3月9日。
高校の卒業式から遂に10年経った。
今日、俺は、プロポーズをする。

待ち合わせ場所へ着くとまだ居なくてホッとしたのも束の間後ろから目隠しをされた。

「だ〜れだ」
「それは答えなきゃあかんやつ？」

溜息混じりに返事をすると俺の前に躍り出たAは「待った？」と笑っていた。
先に来てた訳じゃないのかと思って少し安心するけど顔には出さない。

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