【実l況l者】魔法の言の葉【短編集】

そして落ちゆく眼鏡/rt ページ15

自分名義で車を買ってそろそろ2年が経とうとしていた。
維持費の為に働いてるのかと思うくらい車にはお金がかかるけど、仕事の通勤の為と言え毎日乗ってれば車にも愛着が湧く。
実際に運転は疲れるから嫌いと言う人もいるけど、運転するのは好きだった。

カードキー式の鍵を取り出す。
カードキーの鍵ってストラップとかキーカバーとか付けられなくて好きじゃない。

「ただいま」
「おー、おつかれさん」

ソファに座っていたらしい振り返る顔に自然とホッとする。
スーツから着替える為に寝室へ行くと後ろから足音がした。

「どしたの？」

振り返って聞くと「暇やから見てる」と私より先に歩を進めてベッドの端に座り始めた。
「えっち」と微笑んで冗談を言うけど「えっちやもん」とふにゃと目を細めて笑われると弱い。
結局、鍵がカードキー式なのも、機嫌の善し悪しが顔に出ちゃう誰かさんのことも、キッチンが狭いのも、全部許しちゃうのは、惚れた弱みなのだ。

「ところで、何でまだ眼鏡かけてるん？」

問いかけられてから、何かいつもより視界がクリアだなということに気付いて顔を触る。

「あ、ほんとだ、外すの忘れてた」

そういうレトルトも、珍しくはないけど今日は眼鏡をかけていた。

私は運転する時と仕事の時以外は基本的には眼鏡をかけない。
コンタクトじゃないけど、裸眼生活の方が慣れているから家ではかけないと言う方が正しい。
近視と乱視だし、言うほど視力は良くないから持ち歩きはするけど、なるべく裸眼でいたかった。
理由は特にないけど、強いて言うなら眼鏡をかけ続けると運転と仕事の時にいつもかけているせいか、集中する癖がついていて、疲れるってとこかな。

外そうと手を伸ばしたら、違う方向から手が伸びてきて腕を掴まれた。

「何？」
「い〜いこと思い付いちゃった」

口元が孤を描いて、嬉しそう……と言うより楽しい悪戯を思い付いた子供のような顔に似ている。
うーん、嫌な予感しかしない。
運悪く着替え終わってあとは眼鏡を外すだけだったせいで「隣座って」と言われてしまった。
疑いながら腕組みをしてクローゼットにもたれかかっていることに気付いたレトルトは、両手を広げた。

「ほら、おいで」
「……ずるい」

ずるい。
そんな事、好きな人に言われていかない女いるの？いないでしょ。
それがわかってるかのように「んふふ」と笑っている。
何回でも言うけど、ずるい。

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