たとえば物語りじゃないとして/uszw ページ46
空になったグラスをコンコンと箸で叩かれた。
随分酔っているようで目がとろんとしていて顔も耳も真っ赤だった。
「牛沢、もうやめなよ」
「酔ってるように見えて酔ってないですよ」
酔った時の常套句を吐いた牛沢の為に水を頼むと机の上に置いてあった手の甲の上にひとまわりもふたまわりも大きい手の平が重ねられた。
「ほら、酔ってる……水くるから飲んで」
「酔ってない」
拗ねたように口を尖らせる。
いつもはスカした顔しているくせに甘え方は随分とお上手なことで。
いつだか同じように目の前のこの男がべろべろに酔っ払っている時にどんな物語りが理想か聞かれたことがあったけどうまく答えられなかった。
改めてそう問われるとよくわからなくて。
ただ、好きな人と同じ気持ちで単調な日々の中に小さな幸せを見つけて共有してそうやって歳を重ねていけたら……それ以上の幸せなんてきっとない。
たとえばかぼちゃの馬車がなくたって
たとえば綺麗なドレスじゃなくたって
たとえば運命的な出会いでなくたって
たとえばガラスの靴落とさなくたって
酔い潰れて記憶全部なくなるような王子様に似つかわしくもないあんたに「可愛いね」って言って貰えれば私の物語りは始まるんだよ。
物語りのようにうまくはいかない現実に溜息吐いたって、夜空に光る星に願ったって、全額払った飲み屋のお金は戻って来ないし、タクシーの運転手に任せた酔い潰れた牛沢は戻っては来ない。
「いつまでこんなことやってんだろ……」
タクシーで帰ろうと思ったけど酔い醒ましついでに歩いて家に帰るとオートロックマンションの自宅の前に人影が見えた。
「……な、なにしてんの」
「遅かったじゃん、心配させんな」
「いや、こっちのセリフ」
その男は酔いで記憶を全部失くしたはずの牛沢だった。
「酒飲みは酔う演技くらいできなきゃな」
「何でこんなとこにいんの?」
「ここはAのお城でしょ?」
「まあ……」
物語りと言えば、まあ、お城は必要不可欠ですからねと言いながら近付いてきた。
「……夢見がちで可愛いとこあんじゃん」
覚えてる?とニヒルに笑った牛沢の顔は私の表情を見ると嬉しそうな笑みへと変化した。
「たとえば物語りじゃなくても、Aが望むならお城の前でキスするから」
跪いて差し出された手はやっぱり私よりも数倍は大きくてそっと重ねると優しく握り返された。
「そしたらさ、Aの王子様にしてくれる?」
たとえば初カレじゃないとして/ky→←たとえば物語りじゃないとして/uszw
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luco(プロフ) - パンださん» パンだ様、コメントありがとうございます!読者様の楽しみになれて嬉しいです。今後もマイペースになりますが頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (2021年3月30日 2時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
パンだ - めちゃくちゃ面白くて楽しませて貰ってます!更新頑張って下さい! (2021年3月28日 23時) (レス) id: 0ce8abb0bc (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - ららさん» らら様、コメントありがとうございます!lucoを知って頂いた上に全作品お読み頂けて嬉しいしかないです!微微調整しながら今後もマイペースに更新していくのでこれからもよろしくお願いします\(^^)/ (2020年2月23日 1時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
らら - 最近、lucoさんの事を知って今めちゃめちゃハマってます、!!lucoさんが書かれた作品全部読ませて頂きました!!きゅんきゅんして幸せです!笑 これからも頑張ってください!応援してます!! (2020年2月23日 1時) (レス) id: 55f78e88a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:luco | 作成日時:2020年2月11日 1時