【実l況l者】たとえば自惚れじゃないとして【短編集】

だから人生は楽しい/rt ページ29

「いつものジーンズにパーカーだってAなことには変わりないし俺は好きやけど」

青みがかった瞳はいつの間にか逸らされていて、視線を移したグラスの中のジンジャエールは気付けばあと少しでなくなりそうだった。

「でも可愛いって思って欲しくてお洒落するんは普通に可愛いの限度越えてるやろ……好みもクソもそんなんどうでもええし」
「レ、レトさん……今とっても恥ずかしいこと言ってるの気付いてる？」
「気付いとるわ！！改めて確認すな！！恥ずいやろ！！」

ぶーっぶーっと鳴り続けてるスマホを無視していたせいでとてもタイミングの悪い所にうっしーとA子さんが手を繋いで帰って来た。
俺とAはそれを見てそれまでの会話を全部ぶっ飛ばして目を見合わせて揃った声が出た。

「「何があったん？！？！」」

A子さんは慌てて手を離そうとしていたけどそれをうっしーが離す訳なく荷物を回収して「取り込み中みたいだから失礼するわ」とA子さんを連れて帰って行った。
A子ちゃんの耳が少しだけ赤みがかったように見えたのは俺の勘違いか……？

「驚いた……あの子のあんな顔初めて見た」

そう言いながら出入り口を見つめたままAはきゅうりを丁寧に挟んだ箸を口に運んだ。
ゴクッと生ビールを飲み干してるのを見ると何だか美味そうに見えて「俺も生飲もうかな」なんて声が漏れてしまった。

「酔い任せに告白すんのはだーめっ」
「……酔い任せやないし俺はちゃんと言うたやんけ」

友達が長いとやはりこういう雰囲気は恥ずかしいのはお互い様なようで視線を逸らして愛想笑いをしているAの頬が赤いのはアルコールのせいか、それとも……。
いや、俺は知ってる。
どんなに酔っ払ったって千鳥足になったってAは顔も耳も全く赤くならないことを。

「あ、おい！何笑ってんのー？！」

間延びした語尾もいつも通り。
いつも通りのAに救われる、素のままでいられる君が、死ぬほど好きだって実感が突如わいてきて笑いが止まらんくなる。

「かしこまんなくていいから傍にいてよ」
「100年くらいは隣居座っちゃる、もちろん恋人としてな！」

バキュンとアイドルがやるような銃型の指差しをされて本当に心臓が握り潰される日が来るなんて、人生はだから楽しい。

うっしーとA子さんがくっついたのも今夜のようでまたまたドラマ的な馴れ初め聞くために集まった飲み会で勢い余りプロポーズ紛いなことしてしまう俺の話はまた今度ね。

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