【実l況l者】さぁ、どんなオレに夢みてる？【ky】

前も後ろも行き止まり ページ4

何も言わずオートロックの鍵を開けるボタンを押してまた玄関前に待機した。
部屋の階数は6階。
運悪く玄関側はただの一方通行の道路側だ。
もし本当にレトさんのストーカーがGPS監視していてこのマンションの目の前に居たら完全に顔が割れる。
ここの所は寒くなってきて外では大抵マスクをしているからマスクをしても意味がない。

ピーンポーン

ビクッと肩が跳ねた。
でも暗いしそこまで顔もわかる訳ないか、GPS監視しているからと言ってこんな夜中にマンションの前まで来るとは限らないし、あんまり深く考えるのはよそう。

チェーンロックはそのままに鍵だけ開けると玄関にガンッと手が掛けられた。

「へぇ、危機管理能力は高いんだ？」

マスクと眼鏡をしたキヨくんがそれだけ言うと「俺らしかいないから開けて」と言ってきた。
開ける訳ないだろう、動画では何度も見ているけれど、初対面の知らない男2人をほいほいと部屋にあげるほど頭が弱い人間ではない。
わたしは手に持っていたスマホをドアの隙間から差し出した。

「これお返ししますから早く帰ってください」

眉間に皺を寄せてからスマホを雑に奪い取るとキヨくんはわざとらしく大きな溜息を吐いた。

「死にたくなきゃ開けろ」
「な、なん」
「早くしろチェーン切んぞ」

北のヤンキーって伊達じゃないと思いながら震える手でチェーンに手を掛けると後ろにいただろうレトさんの声が聞こえた。

「俺らしかいないのは玄関の前は(・・・・・)ってことやから」

心情的に前にも後ろにも行けず戸惑いを隠せないままチェーンロックを外して2人を迎え入れた。
キヨくんもそうだけどレトさんもマスクと眼鏡で完全防備だった。
逆に目立つんじゃ……とは思ったけど口には出さずに来客用のスリッパを出してから鍵とチェーンロックを固く閉めた。

勝手にリビングまで突き進みソファに腰掛けて「学生？いいとこ住んでんじゃん」と明るく言うキヨくんとは対照的に「うわ」と言いながらスマホを見て愕然とした表情でレトさんはその場に立ち尽くしていた。

恐怖に後押しされる形で家にあげてしまったけれど、なぜレトさんだけではなくキヨくんも来たのだろうというひとつの疑問がある。
スマホ取りに来るだけなら別にレトさんだけでいいし万が一ストーカーがマンションの前にいて部屋が割れてここまで来たとしても警察呼べばいい話だし……と考えながら何も出さないのはアレだなとわたしはケトルに水を入れて沸かし始めた。

ひどく冷たい綺麗な指先→←回線切れの乙女ネットワーク

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す