【実l況l者】酸性インクのラブレター【企画短編】

理由付けなんていらない/ky ページ24

いつまでファン気分でいれば気が済むんだろうと薄れゆく意識の中で何とも言えない気持ちになっていた。
円盤発売と会場発表の告知映像を見て大泣きする自分にも非はある気がするけど何も教えてくれなかった彼氏のキヨに全責任を擦り付けたい気持ちが上回っていた。

トラブルで当初の予定より1週遅れた生放送。
チャンネル先行チケットの発売日もあるからどうしても今日じゃなきゃだめでAとの予定忘れた訳じゃないからと必死になって弁明されたら許さざるを得ない。
そもそもわたしはキヨの彼女ではあるけれど、同時にファンでもあるから残念ながら生放送が楽しみな気持ちの方が大きかった。
けど「別に怒ってないからそんな謝んなくていい」と言ったけど少し愛想悪くなってしまったのくらいは彼女特権で許して欲しい。
珍しく本当に申し訳なさそうに「ごめんな」なんて言われて調子が狂ったのは放送日決定のツイートがされた日の夜だった。

独立洗面台の前に立つと泣き腫らした目が赤い。
どうせ、飲みに行って朝方に自分ん家に帰るんだろう、自分の寝室の壁にかけられた新しく買ったワンピースを見つめていたらいつの間にか眠っていた。

「A？」

遠くから名前を呼ばれた気がした、幻聴とか笑える。
会いたい気持ちの分だけ会いたいって伝えられたらその足でわたしの家に向かってくれたんだろうか。

次の瞬間、頬に人肌を感じて目をバッと開いた。

「あ、起きた」
「え、な……は？」

まだ脳が覚醒しなかったけどぼやけた視界の中には疲れ切った顔をしたキヨがいた。
ベッドの上で横たわってるわたしと目線を合わせるかのようにしゃがみ込んでるキヨは「褒められに来たから起きて」と手を握ってきた。

「今、何時？」
「4時」
「朝だよ」
「そー、朝だから起きる時間だろ？」

んな訳あるか、折角の休日に朝の4時に起きるなんて普段のわたしだったら天地がひっくり返ってもありえないことだった。

「報酬は？」
「ちゅー」

いらないけど、起きてあげると言って少し乱れたキヨの髪の毛を頭ごと撫でると「今日は俺が甘える日だからね？」とふにゃふにゃした顔で笑っていた。

リビングのソファに座るとラグの上に対面するように座ってわたしの足を抱え込んできたキヨは「頭も覚醒した？」と聞いてきた。
「まぁ、少しは」と答えつつ瞼を擦る。
昨日、ホットタオルを押し当てていたから少しは腫れが引いたのかも。
キヨも何も言わないしなぁ。

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