指先のみで辿るように伝える ページ3
「そ、それでも家はあるやろ、借家か持ち家かは知らんけど」
「……旦那の転勤でこっちに来たんです、社宅なので1週間以内に出て行けって」
彼女は笑顔で俺を見た。
その笑顔は俺が今まで見てきた笑顔の中で最も感情と一致しない顔だった。
「お義母さんにも自由に生きてって縁切られちゃって、両親も、もういないし……なにもなくなっちゃいました」
重い、正直かなり重い。
見ず知らずの俺だから話せることなのかもしれんけど、聞いてるこっちはどんな反応が正解なのかは全く検討もつかない。
彼女はまた溢れてきそうになった涙を自分の人差し指で拭うと「ごめんなさい」と謝ってきた。
「家には寂しくて帰れないけどそこらへんのホテルに泊まります、話聞いてくれてありがとうございました」
ぺこと頭を下げた彼女に「何も言えんくてごめんな」と言いつられるようにして頭を下げた。
彼女は眉を下げくすりと笑った。
歩き出した背中はあまりにも小さくて、今にも泣きそうな笑顔が頭から離れない。
このまま別れたら何か大事なものを失う気がした。気がしただけなのに、気付くと追い掛けて消え入りそうな色の腕を掴んで引き止めていた。
「行くとこないなら俺ん家来る？」
彼女は振り返るとやっぱりまた泣いていて、それでもその言葉を聞くと目を丸くして驚いていた。
何を答えるでもなく俺の口元に手の平を這わせるような仕草をしてから俺を見つめると「やっぱり」と小さく呟いた。
「あなた、ゲーム実況者のレトルトさんでしょ？」
「えっ」
マスクもしてないのに言い当てられたのには驚いたけどさっきの手を這わせるような仕草は口元を隠して俺を見たのか。
「だめですよ、こんな他人、信用なんかしちゃ……」
「別に信用してるわけやないし、打算とか下心なしで人に優しくしちゃいけないわけでもないやろ」
そう言うと彼女は戸惑うようにそっと俺の手を取った。
「じゃあ今夜だけ、わたしが後追いしないように見張ってくれますか」
ずっと頑張って笑っていたのだろう、頬は引き攣り眉も目尻も下がっていた。
握られた手の体温はほぼないに等しく、こんな真夏だと言うのにその手は氷のように冷たかった。
「無理に笑わんでもええよ」
そんな風に無理に笑われるくらいなら感情を吐き出された方がまだマシだ。
ぐっと重ねられた手を繋ぎ直すと、堰を切ったように泣き出した彼女の声を聞きながら俺はを一歩一歩、力強く歩いた。
俺も君も生きてる、と伝えるように。
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luco(プロフ) - 赤の黒犬さん» ずっと温めてきた作品だけに思い入れが強いので真っ直ぐに作品を読んで褒めて頂けて感無量です…！彼だからこの結末になって彼だからこその作品になった気がします。とp4の関係性が大好きなので気を遣って書いたので気に入って貰えて良かったです！ (2021年8月18日 0時) (
レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
赤の黒犬 - 普段常識人だからこそこういう禁断の恋一歩手前のレトさんが凄く輝いている気がしました。lucoさんの人選が流石過ぎます。今回の世界線はそれぞれの立場が切な過ぎて胸痛いです。その分報われて感動でした! それに今回は特にtop4の関係性が見えて最高でした! (2021年8月9日 3時) (レス) id: d5158b45c8 (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - ゆりさん» ゆり様コメントありがとうございます！感情直球とっても嬉しいです！！読んで頂けて本当に感謝です（；_；） (2019年10月11日 11時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆり(プロフ) - すごくすごく好きです。お疲れ様です！ありがとうございます！！ (2019年10月11日 10時) (レス) id: 284b51d183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：luco
| 作成日時：2019年3月8日 1時
