AfterStory:未来の為に記憶リセット ページ50
最終話「マスターキーはありません」の続きのお話
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そんなこと言われてこの足が電車に向かって動く訳がなかった。
「な、」
「乗んないの?電車行っちゃうけど」
言葉とは裏腹にわたしの目前にいるその人も乗る電車を見送り動揺するわたしを嬉しそうに、愛おしそうに眺めていた。
朝日が眩しいせいで綺麗に染められた赤い襟足がキラキラと輝いていた。
「キヨさん……こそ電車、行っちゃい……ましたけど」
ひと一人分、隔て立っていたスペースを詰めてきたキヨさんを見上げる。
「こんな顔してるAのこと1人で帰す気にはなんねえの」
目頭が熱い。
まさか思い出してくれるとは思っていなかった。
わたしはどんなに辛いことがあってもあの言葉だけで頑張れてきた部分もあった。
部屋で壁ドンされた時に言った言葉に心底意味がわかんないって顔してたのに、覚えてないってファミレスで言ってたのに、
「こんな時に言うなんて、ずるいですよ」
「……ずるくて結構、俺的には儲けもん」
頬に添えられた手は細くて綺麗なのにちゃんと男の人の大きな手の平で滴る雫も厭わず、親指だけでわたしの涙を拭っては眉を下げて優しくて微笑んでから「ははっ」と声に出して笑い始めた。
「号泣してんじゃん、次の電車に乗るかぁ」
「えっ、本当について……くるんですか?」
「泣いてる彼女1人で帰すほどデリカシーない男じゃないからね?」
キヨさんはホームに入ってきた電車に向かって1歩歩みを進めた。
1歩、1歩、地道に堅実に真摯に取り組んできた仕事。
それはきっとキヨさんも同じでその証拠にあの頃より遥かに有名になった。
画面の中の彼も、今わたしの手を優しく握ってくれてる彼も、同じようで違くて、違うようで同じなんだ。
すっかり泣き止んだわたしに気付いたキヨさんは今度は「どうしよう」と溜息を吐き始めた。
ものの3分ほどで最寄り駅に着いてしまい電車を降りてから聞いて欲しいオーラに負けて「どうしたんですか?」と聞くと、キヨさんは本当に真剣な顔をして口を開いた。
「俺、あの言葉プロポーズに使うつもりだったんだわ……」
わたしはあの言葉を言われた時より硬直して何も発せずにいると、同じく失言とも言うべきことを言ってしまったキヨさんも同じく「ん?」と言ったまま硬直し始めた。
「嬉しかったですけど、記憶消しますか?」
「採用!!」
目を合わせて笑い合うと手を繋ぎ家路に着いた。
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なみの - とっても面白いですね( ´∀`)相変わらずの天才っぷり・・さすがです!毎回素敵なお話ありがとうございます(≧∀≦) (11月5日 13時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - 赤の黒犬さん» これは完全に動画内のヨさんのテンションで書いてたので反応どうかなと思っていたので好きと言って頂けて良かったです。たくさんの作品にコメント本当にありがとうございます。レスが遅くなりましたが毎回見て元気を貰ってます! (2021年8月18日 0時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
赤の黒犬 - キヨさんの嫉妬とか御馳走様過ぎる。キヨさんが元々レトさんに憧れていた節があったからこそキヨさんの嫉妬って映えると思ってニヤニヤしてました。キヨさんがドルヲタとか女優ヲタとして動画内で喋っているテンションで恋して、本人っぽさが倍増するのも好きです。 (2021年8月9日 2時) (レス) id: d5158b45c8 (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - siratama〇さん» siratama〇様、コメントありがとうございます!初の学パロ以外での長編ですので読者の方の反応が気になっていたのですが好みと言って下さりとても安心しました。そして長編に対しての励ましのお言葉もありがとうございます!とても嬉しいです。頑張ります! (2019年3月9日 22時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
siratama〇(プロフ) - 好みof好みです。長編苦手だと仰りますが胸を張って得意だと叫べるレベルで素晴らしいです。素敵なお話ばかりで読むのが楽しみの1つになっています。ずっと応援しております、頑張って下さい! (2019年3月9日 20時) (レス) id: 1503b2e324 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:luco | 作成日時:2019年3月7日 1時