【実l況l者】マスターキーなんてありません【ky】

隠せてない瞳の意味を教えてよ ページ11

「ちょっと、話せる？」

レジとパソコンを挟んだ隣でチェックインをしていた人が奥に引っ込んだところで、Aに声のボリュームを最小限に抑えて話しかけると、奥を少し覗いてから「大丈夫ですよ」と紙に走らせていたペンを動かす手を止めてくれた。

「仕事中なら別にしながらでもいいから」
「あ、お気遣いありがとうございます」

そう言うとチェックインの用紙にさらさらと字を書き出した。
何て言おうか、断りにくい誘いをした方が良さそうだ、なんてたって俺には「お客様」と言う壁がある。
快諾される可能性は限りなく0に近い。
けど、こんなチャンスそうそうない。
俺も夜遅くや朝に帰ったりが多いし、Aも夜勤が多いらしいし、このチャンス、逃がす訳にはいかねぇんだわ。

「仕事のあと、時間ある？」

書いてた紙を整理していたAはゆっくりと顔をあげると、困りながらも笑っていた。

「それはお誘いですか？」

Aの顔から断られるとばかり思っていた俺は意外な質問に攻めスイッチを押された。
俺は手を伸ばして少し強めにAの細い腕を掴んだ。

「だったら、どうすんの？」

少しでも焦ったり素のAが見られるなら、それで大収穫だった。
だけどAは焦りもせず、微笑みも崩さず、俺の手をゆっくりと上から触った。
その柔らかで思いの外、小さな感触に驚いて咄嗟に腕を離すと「……どうもしません、お客様と個人的に会うことは出来ません、申し訳ございません」と深々とお辞儀をされた。
その顔は眉を八の字に下げて、本当に申し訳なさそうなをしていた。

いや、まあ、断られることは想定の範囲内。
それでほいほい付いてくるような女じゃないことはわかっていたし、逆にそんな女だったら幻滅してっから。
全然傷付いてなんかないし？全然な！
……俺もつくづくめんどくせぇ男だな。

しかし、その瞳には切なさが帯びているのを俺は見逃さなかった。
その瞳の意味だけがわからず、何も言えず、それでいて動けないでいると後ろ側のフロントの扉が開く音がした。
いらっしゃいませの声が出るとばかり思っていたけれどAは「あれ」とだけ声を発した。

「あれあれー？また逢い引きしてんの？」

振り返ると昼に見た時の私服とは違うあやちゃんがひらひらと手を振っていた。
あやちゃんは満開笑顔で俺達を見ると嬉しそうに両手を合わせてパンッと音を出した。

「本当はAを迎えに来たんだけどぉ、キヨも入れて3人でご飯行こ！ね！決まり！」

その眩しさを誰にも知られないで→←チャンスは逃さないタイプなんで

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