★ ページ29
・
「藤井さん入られまーーす」
「よろしくお願いしまーす」
撮影用の衣装を着て、ヘアメイクも済ませた藤井さんがスタジオに入ってくる。
ここ数日、シミュレーションのためにひたすらアップで見続けた顔がそこにある。
衣装チェックから戻ってきた小瀧さんや村上さんが戻ってきて挨拶する。
その輪の中にわたしも入れてもらった。
「西緋の 村上と申しますー」
「小瀧です、よろしくお願いします」
「藤井流星ですー」
順番に名刺を受け取ると、
藤井さんの目がわたしをとらえて、こちらは？という視線を向けてくる
「あ、デザイン事務所の梁ゆりですっ」
「へ〜〜。デザイナーさんなんやぁ。
じゃあちょっと、いい感じにリタッチしてもろて…(笑)」
「えっ！？いやいやいや、修正いらないくらいかっこいいです！」
やべ、藤井さんの冗談になんて返していいか分からず、ついミーハーな返事を…
「アハハ。ありがとぉ」
なんか、柔らかいってか、ゆるい感じの人だなあ。
緊張していたけど、ホッとした。
スタジオスタッフさんの声かけで、藤井さんが所定の位置に立つ。
撮影が始まる。
・
＿＿＿ピピッ、パシャ、バシャ…
まずは、ワッフル地の薄いベージュのロングTに、白い緩めのボトムを合わせた衣装から撮っていく。
シャッター音が鳴るたびに、少しずつポージングを変えていく藤井さん。
“アルコ”のボトルを持ち替えてみたり、頭にコツンとあててみたり。
＿＿“OKでーす。じゃあ次ボトルなしのカットいきまーーす”
「…さん、…梁さんっ」
「ぅえ、ハイ！」
隣に並んで見学している小瀧さんに声をかけられていたのに気がつかなかった。
つい間抜けな返事をしてしまった。
「すいません…どうかしました？」
「梁さん、すごい集中して見とるなぁって…」
「あぁ…」
人物が絡む撮影の時は、フォトグラファーが決めるライティングやアングルに対し、
それを使ってどうデザインするかをあらかじめ考えながらチェックするようにしている。
「だから、たとえば、このカットはあの紙面に合うなーとか、
体の開き方で2パターン使えるなとか…」
「へー、なるほど！
そういうとこ見てるんや…勉強になりますっ」
＿＿“じゃあ次衣装チェンジお願いしまーす！”
・
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作者名：Lucio | 作成日時：2019年6月9日 14時
